女性にとってのターニングポイントである更年期には、これまでになかった体の不調を経験することがあります。ホットフラッシュやほてりといったよく知られた更年期の症状だけでなく、腹痛などのおなかの不調に悩まされる方もいます。
今回は、更年期のおなかの痛みの症状や原因、セルフケアの方法、病院を受診する目安について解説します。
※弊社から石原先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
更年期になると、おなかの不快感や痛みに悩まされることがあります。たとえば、おなかの奥の方でずっしりとした重たい痛み、チクチクと刺すような痛みなどを感じたりします。痛みはずっと続いている場合もあれば、ときどき痛む場合もあります。
会議のプレゼンなど人前での緊張する場面で、急におなかがゴロゴロと鳴り始めて困る、トイレの場所が気になるようになったという方もいます。そのほか、便秘・下痢を繰り返したり、おなかが張って苦しい「腹部膨満感」が出たりなど、腹痛に加えて様々なおなかの不調が生じることがあります。
このようなおなかの症状は、更年期の症状の可能性があります。更年期の症状は、ホットフラッシュやのぼせ、発汗などがよく知られており、腹痛などのおなかの症状である「消化器症状」も、更年期の症状としてあらわれることがあります。医療機関で検査をしても、明らかな異常がないにも関わらず、これらの症状が重く、日常生活に支障をきたしている場合は、更年期障害と診断されます。
更年期に腹痛をはじめとする消化器症状が生じる原因については、完全には解明されていません。しかし、加齢に伴う体の変化、女性ホルモンの減少などが関わっているとされています。
更年期は、閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間を指します。個人差はあるものの、日本人女性が閉経する平均年齢は50歳前後とされており、更年期は平均して45~55歳の期間にあたります。この更年期には、閉経に伴って女性ホルモンが乱高下しながら減少する影響で、全身の調子を整える「自律神経」のバランスが乱れやすくなります。
自律神経は、私たちの意思とは関係なく、胃や腸の動きをコントロールするはたらきがあります。そのため、この自律神経のバランスが乱れることで、腹痛や便秘・下痢、おなかが張るなどの消化器症状が起こりやすくなります。また、女性ホルモンとは直接関連はありませんが、加齢現象として、胃腸の機能自体が衰えてくることも、腹痛などの消化器症状の原因となることがあります。
また、更年期の女性を取り巻く、仕事の悩みや人間関係などからくる精神的なストレスによって自律神経が影響を受け、おなかの不調を招くこともあります。このように、更年期のおなかの痛みは、閉経に伴う女性ホルモンや自律神経の乱れ、そして加齢やストレスなどの要因が複雑に絡み合って起こると考えられます。
おなかが痛くなるという症状は、更年期の影響に限らず、様々な病気が原因で起きている場合もあるため、注意が必要です。ここでは、腹痛の原因としてよくある病気について解説します。
表:腹痛の原因となる病気
| 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 | 胃や十二指腸の内側の粘膜がただれて傷ついてしまう病気です。みぞおち付近に強い痛みが生じ、とくに空腹時に症状が強くなる特徴があります |
|---|---|
| 過敏性腸症候群 | 医療機関で検査をしても、明らかな異常がないのにも関わらず、緊張や不安などのストレスがきっかけで腸の働きが乱れ、腹痛や慢性的な便秘・下痢、腹部の不快感などが起きる病気です。思春期から40代に多いといわれています |
| 子宮筋腫 | 子宮の筋肉組織にできる良性の腫瘍です。過多月経や月経痛、貧血などの自覚症状のほか、腫瘍が大きくなってくると、周囲の臓器が圧迫され、下腹部が痛むようになります |
| 子宮内膜症 | 本来、月経のときにはがれ落ちるはずの子宮内膜やそれに似た組織が、子宮以外の場所に過剰にできてしまう病気です。増殖した子宮内膜が排出されずに体内に残ることで下腹部が痛むようになります |
これらの病気が見つかった場合は、適切な対処が必要です。腹痛が続いていて日常生活に支障が出ている場合は、医療機関を受診し、医師の診察を受けましょう。
更年期の腹痛がつらいときは、まずは体を締め付ける下着やベルトを緩め、横になるなど楽な姿勢で安静に過ごすようにしましょう。また、更年期の影響によって、自律神経が乱れやすくなっているため、普段の生活習慣を見直すことも大切です。規則正しい食事や睡眠を習慣づけ、日常的なストレスを軽減することで、自律神経を整えましょう。
更年期の不快な症状に対しては、漢方薬でセルフケアすることもできます。漢方薬には、更年期障害をはじめとする女性特有の心身の不調に効果を発揮するものがいくつかあります。
漢方医学では、更年期障害は「気・血・水」のバランスの乱れによるものと考えられています。「気」とは体と精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは不要なものを排出する体内の水分のことを指します。漢方薬はこの「気・血・水」のバランスを整えることで、症状にアプローチします。
漢方薬による治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」というアプローチと、症状そのものをやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。
更年期障害の根本的な原因としては、ホルモンバランスの乱れという体質の変化が関わっていることから、本治のアプローチとしては次の3種が広く用いられています。
表1:更年期障害に対する本治のアプローチとして用いられる漢方薬
| 当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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|---|---|
| 加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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| 桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) |
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一方、腹痛などのおなかの症状に対しては、その症状をやわらげる「標治」のアプローチとして、以下のような漢方薬が使用されることもあります。
表2:腹痛に対する標治のアプローチとして用いられる漢方薬
| 桂枝加芍薬湯 (けいしかしゃくやくとう) |
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|---|---|
| 芍薬甘草湯 (しゃくやくかんぞうとう) |
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| 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 (とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) |
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漢方薬を効果的に使用するためには、1人ひとりの体質や状態に合わせて選ぶことが大切です。漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を使用しましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても、症状が悪化している、または激しい腹痛や嘔吐が続く場合は、すぐに医療機関を受診してください。
更年期には、女性ホルモンの減少で自律神経のバランスが乱れ、胃腸の動きに影響が出ることで腹痛が起こることがあります。そのほか、加齢による消化管の機能の低下、ストレスなど複数の要因が重なって腹痛が起こるケースもあります。
腹痛は更年期だけが原因とは限りません。消化器系・婦人科系の病気が原因となっていることもあるため、セルフケアをしても改善しない場合、激しい腹痛や嘔吐が続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。
更年期には、ホットフラッシュやのぼせだけでなく、腹痛などの消化器症状もあらわれることがあります。更年期の不快な症状は、女性ホルモンの減少に伴う自律神経の乱れや、加齢、ストレスなどの要因が絡み合って起きると考えられています。
気になる症状があるときは、おなかまわりを緩めて安静にする、生活習慣を見直す、漢方薬でセルフケアするなどの対処法を試してみましょう。ただし、なかには胃潰瘍や子宮筋腫など他の病気が原因で腹痛が起きている可能性もあるため、症状が続く・悪化している場合は、早めに医師に相談しましょう。