「やる気が出ない」「なにもしたくない」という状態は、更年期の女性によく見られる代表的な症状の1つです。最近までは趣味や仕事といった様々な活動をこなしていたのに、更年期に入ってからは急にやる気がでなくなって、外出が億劫になってしまったという方もいるかもしれません。
今回は、更年期に意欲が低下する原因、対処法を解説します。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
更年期(閉経前の5年間と閉経後の5年間、合計で約10年間)になると、とくに大きな病気がないにも関わらず、やる気が出なくなることがあります。
更年期に起こる意欲低下の症状は、更年期症状の1つであり、閉経に伴って女性ホルモンが急激に減少することにより生じると考えられています。
更年期によって起こる症状「更年期症状」は、大きく分けて自律神経失調症状(ホットフラッシュや肩こり、めまいなど)、精神的症状(情緒不安定、イライラなど)、身体的症状(関節痛、筋肉痛、消化器症状、皮膚粘膜の乾燥など)の3つに分けられます。意欲低下は、精神的症状に含まれます。
女性ホルモンには、丸みのあるカラダを形作ったり、生理のリズムを維持する役割だけでなく、メンタルを安定させたり、脳の働きを鮮明にしたりする作用があります。そのため、女性ホルモンが急激に減少することで集中力が低下し、意識がぼんやりとしてしまうことがあります。
また、女性ホルモンの低下は「自律神経の乱れ」を引き起こし、意欲の低下をもたらします。
自律神経は、臓器の活動や発汗、体温調整など、人間が自分の意思ではコントロールできない基本的な生命活動を維持する役割を担っています。通常は活動を活発にする交感神経と、反対に活動を抑える副交感神経がシーソーのようにバランスよく働くことで機能しています。
ところが、女性ホルモンが急激に減少すると自律神経のバランスが乱れ、正常なコントロールができなくなります。これにより「やる気が出ない…」「だるくてなにもしたくない」という状態に陥ったり、逆にイライラや焦り、怒りっぽいなどの症状があらわれたりすることもあります。
自律神経の乱れによるこれらの症状は、自分の意思ではコントロールできないため、思い通りにいかない状況にジレンマを抱えることになります。
やる気が出ない・なにもしたくないなどの症状を引き起こす原因は、更年期以外にもあります。
睡眠不足が続いているとき、運動などでカラダを酷使したとき、海・山のレジャーで紫外線を浴びた後などは、疲労が蓄積して行動が億劫になることがあります。
そのほかにも以下のような影響で、意欲の低下の症状が続くことがよくあります。
今出ている症状が更年期の症状であると判断するためには、症状の背景に大きな病気や心身の異常がないことを医療機関などで確かめることが必要です。
医療機関で検査をしてもとくに大きな病気が見つからない場合、更年期症状である可能性が高くなります。意欲の低下によって日常生活に支障が出ている場合は、更年期障害と診断され、治療の対象になります。
やる気が出ない状態が続いていたり、なにもしたくない状態が続いていたりする場合は、「更年期だろう」と自己判断はしないで、医療機関を受診し、医師に相談しましょう。
更年期の意欲の低下は、女性ホルモンの減少とそれに伴う自律神経の乱れが関わっています。そのため、自分の努力だけでは症状をコントロールすることはできません。
症状が出ているときは無理をせずに、心身を休めることが大切です。更年期症状と付き合っていくにあたって、周囲の理解があるだけでも気持ちが楽になります。家族や信頼できる友人などに自分の状態を話しておきましょう。
不規則な食生活と睡眠不足は、自律神経の働きを乱し、症状を悪化させます。栄養バランスのよい食生活を心がけ、十分な睡眠をとるようにしましょう。
ゆっくりできる時間やリフレッシュする時間を設けて、心身を回復させましょう。
また、更年期症状のなかでも自律神経の乱れによる症状が強い方は、適度な運動もオススメです。運動をすることで自然と脈拍や呼吸、発汗が活発になり、自律神経によい刺激を与えてくれます。また、ストレッチやヨガなどを毎日行うことで睡眠の満足度が向上し、気分を改善する効果をもたらします。焦らず、自分のペースで運動を続けてみましょう。
そのほかにできることとしては、市販の漢方薬を使用するのもいいでしょう。漢方薬は、女性特有の心身の不調の改善に効果を発揮します。
漢方薬は、「気・血・水」というカラダを構成する3つの要素のバランスを整えることで症状にアプローチします。「気」とは、カラダと精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは、カラダをめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは、不要なものを排出する体内の水分のことです。
漢方医学では、意欲低下の症状は「気」の不足(気虚:ききょ)によって引き起こされると考えられています。したがって、意欲低下の症状をやわらげるため、「気」を補う働きのある以下のような漢方薬が広く用いられます。
漢方薬は1人ひとりの状態や体質に合ったものを使用することが大切です。漢方薬剤師などの専門家に症状を詳しく伝え、自分に合った漢方薬をみつけましょう。
ただし、これらのセルフケアを行っても症状が改善しない、日常生活に支障をきたすほど症状がつらい場合は、婦人科や更年期外来などの専門の医師に相談しましょう。医師から更年期障害と診断された場合は、医療機関で薬物療法を受ける方法もあります。
意欲の低下は、更年期によく見られる症状です。「この状態がいつまで続くのかな」と焦る気持ちになったり、自己嫌悪に陥ってしまったりする方もいるかもしれません。しかしこれらの症状は、閉経後に女性ホルモンが少ない状態にカラダが慣れると、軽快する場合もあります。
今はカラダが更年期という変化に適応しようとしている時期であることを理解し、無理をせず過ごしましょう。
ただし、意欲の低下には、更年期以外の原因が関わっていることもあります。症状がつらくて日常生活に支障が出ているときや、症状が長引いているときは早めに医師に相談しましょう。