腰の痛みは、多くの人が経験する身近な不調の1つです。とくに女性の場合、年齢とともに訪れる更年期に今までとは違う腰の痛みを感じることがあります。しかし、その痛みが長引いて、日常生活に支障をきたすようになると、外出するのが億劫になったり、不安を感じたりする場合もあるかもしれません。
今回は更年期に腰が痛くなる原因、その対策を解説します。
※弊社から宋先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
腰痛とは、腰まわりを中心に、痛みや不快感などが生じる症状のことです。更年期になると、腰痛を訴える方が多くなります。実際に、日本の更年期女性へのアンケート調査でも、多くの方が腰痛を自覚しているという報告があり、肩こりや手足の痛みとともに、更年期に起こりやすい自覚症状として知られています。
更年期にみられる腰痛のほとんどは骨や筋肉の明らかな病気によるものではなく、腰痛という症状が主体の「腰痛症」だといわれています。ただし、更年期と腰痛の発症との直接的な関係は解明されていません。
一般的に腰痛の発症や症状を悪化させる要因として、次の3つがあげられます。
腰痛は、これらの3つの要因が複合的に重なり合って発症すると考えられています。とくに近年では、心理的なストレスが腰痛の発症や悪化の要因の1つとして注目されています。
更年期は、女性にとって職場あるいは家庭内での役割変化やとりまく環境の変化により、人間関係の悩みやストレスを抱えやすい時期です。加齢や長年蓄積された疲労に、心理的なストレスが加わることで、腰痛の症状があらわれることもあります。
腰痛の直接的な原因は様々です。背骨や靭帯、神経などの異常によって腰痛の症状があらわれているケースもあります。
腰痛は、「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」の2つに大別されます。
「特異的腰痛」とは、レントゲン写真やMRI画像で、骨や靭帯、神経、椎間板などの異常が確認でき、原因をはっきりと特定できる腰痛です。代表的なものとして、腰椎変性すべり症(腰椎がずれて神経が圧迫される病気)、腰部脊柱管狭窄症(加齢によって腰の軟骨や骨が変形し、神経が圧迫される病気)、腰椎椎間板ヘルニア(背骨をつなぎ、クッションの役目をしている椎間板が変形して神経が圧迫される病気)などがあり、腰痛や足のしびれ、歩行障害などの症状が出ます。
そのほか、十二指腸潰瘍などの消化器疾患、腎盂腎炎、腎結石などの泌尿器科の疾患、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科疾患、感染性、免疫系の疾患などが原因で腰痛が起きているケースもあるため、強い腰痛が続いている場合は、整形外科などの医療機関を受診して医師に相談しましょう。
一方、「非特異的腰痛」は精密検査を行っても見た目上の異常が特定できず、また血液検査でも原因疾患がはっきりとしない腰痛です。腰痛を訴える方の約85%がこの非特異的腰痛であるといわれており、いわゆる「ぎっくり腰」などのように原因がはっきりしない腰痛や、更年期の腰痛症もその1つです。
医療機関で検査を受けても、骨や靭帯などの異常が見つからないのにもかかわらず、腰痛が続いているときはセルフケアで痛みをやわらげましょう。
更年期の腰痛には、日常生活でできる対処法があります。まずは日頃から正しい姿勢を意識して過ごし、長時間同じ姿勢をとることや重い荷物を持ち上げるなどの動作はなるべく避けましょう。重い物を持ち上げる際は、立ったままではなく、一度膝を曲げてしゃがんだ姿勢から持ち上げることで、腰への負担を軽減できます。仕事や車の運転などで長時間座る場合は、適度に休息を取りましょう。
ただし、原因がはっきりしない腰痛の場合、痛みを心配するあまり、安静にしすぎると逆に腰痛が悪化して、慢性化しやすいといわれています。背筋や腹筋、おしりの筋肉をバランスよく鍛えることで、筋肉がコルセットのように腰まわりを支え、負担を軽減する効果が期待できます。
腰の筋肉の緊張をやわらげ、血行を良くするために、ストレッチや軽い運動を取り入れ、お風呂などで腰を温めることも効果的です。また、ストレスが腰痛に関係している場合は、ストレスの原因を減らし、心身を休ませることも大切です。
そのほかにも、腰痛に効果が期待できる漢方薬を試してみるのもいいでしょう。漢方薬は、更年期に伴う心身の不調に対して効果を発揮します。
更年期の腰痛に対しては、当帰芍薬散、桃核承気湯、牛車腎気丸、八味地黄丸などが広く用いられています。
表:腰痛に用いる漢方薬
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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桃核承気湯 (とうかくじょうきとう) |
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牛車腎気丸 (ごしゃじんきがん) |
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八味地黄丸 (はちみじおうがん) |
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漢方薬は、自分の体質や症状に合ったものを使用することで効果を発揮します。漢方薬の選び方に迷ったら、漢方薬剤師や医師などの専門家に相談し、自分に合ったものを見つけましょう。
更年期にはこれまでになかったような様々な不快な症状(更年期症状)があらわれることがあり、腰痛も更年期症状の1つとして知られています。しかし、腰痛の症状が更年期に関連するものかを判断するには、医療機関で骨や靭帯、内臓などに異常がないことを確認することが大切です。腰痛が続いている、腰痛のために日常生活に影響が出ている場合は、整形外科などの医療機関を受診し、医師に相談しましょう。
腰痛があると、痛みへの不安から日常生活に支障をきたす場合があります。しかし、病院で検査をしても明らかな原因がみつからない「非特異的腰痛」の場合は、安静にし過ぎると、筋力が低下して腰痛が悪化する可能性があります。無理をする必要はありませんが、普段通りの生活を送り、軽い運動やストレッチを取り入れるなどして、適度に体を動かしましょう。不安がある方は、医師や専門の理学療法士などのアドバイスを受けるといいでしょう。
日本の更年期女性へのアンケート調査でも、多くの方が腰痛を自覚しているという報告があり、肩こりや手足の痛みとともに、更年期に起こりやすい自覚症状として知られています。ただし、更年期と腰痛の発症との直接的な関係は解明されていません。
代表的な更年期症状には、のぼせ、発汗、息苦しさ、めまいといった「自律神経失調症状」や、イライラ、抑うつ気分、怒りっぽいといった「精神的症状」、腰痛、関節・筋肉痛、食欲不振といった「身体的症状」などがあります。
症状のあらわれ方には個人差が大きく、不調を感じずに過ごす人もいれば、日常生活に支障が出るほど重い症状に悩む人もいます。
更年期は女性に様々な変化が訪れる大切な時期です。腰痛をはじめとする体の不調は、更年期によるものであることも多く、医療機関を受診してもはっきりとした原因が特定できない場合もよくあります。
しかし、腰痛には体質や生活習慣、加齢、ストレスといった多様な要因が重なっている可能性があり、その多くは適切な対処やセルフケアによって改善が期待できます。
更年期を健康に過ごすために、自分の体の変化を正しく理解し、必要に応じて専門の医師に相談し、診断と治療を受けるようにしましょう。