更年期には、これまで感じたことのなかった体調の変化や不快な症状に戸惑うことがあります。その症状のなかでも、急に体が熱くなる「ホットフラッシュ」や「発汗」などがよく知られています。しかし、その後に続く強い「寒気」や、手足の先の「冷え」に悩まされる方もいます。
今回は、更年期に感じる寒気や冷えの原因とその対策を解説します。更年期の女性の体に関する正しい知識を身につけ、このデリケートな時期を快適に乗り越えましょう。
※弊社から石原先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
とくに気温が低いというわけではないのに、「全身が冷える」「手足などの体の一部が冷たい」と感じる「冷え症」は、更年期に限らず、女性に多く見られる症状です。冷え症は医学的には深刻な病気とは考えられていないものの、血液の循環が悪くなる、免疫力が低下しやすくなるなど、体に悪影響を及ぼすと考えられています。
このような寒気・冷えは、更年期の特有な不快な症状としてあらわれることもあります。更年期の症状は「自律神経失調症状」「精神的症状」「身体的症状」の3つに大別され、寒気・冷えは自律神経失調症状の1つとして捉えられています。なお、代表的な更年期の症状としてよく知られている「ホットフラッシュ」「ほてり」も自律神経失調症状です。
具体的には、ホットフラッシュやほてりの症状がおさまった後に、今度は急に体が冷えてしまい、ゾクゾクするような寒気・冷えを感じることがあります。
このような更年期の症状がひどく、日常生活に支障をきたす場合は、「更年期障害」と診断されます。
更年期の症状としての寒気・冷えは「自律神経失調症状」に分類され、そのなかでも「血管運動神経症状」として位置づけられています。更年期になると閉経に伴って女性ホルモンが急激に減少することで、女性の体と心に様々な変化や不快な症状をもたらします。
本来、この女性ホルモンのバランスは、脳の視床下部という司令塔によって調整されています。視床下部は寒いときに体温を上げたり、逆に体温を下げたいときには汗を出したりする自律神経の働きを同時にコントロールする役割を兼ね備えています。
ところが、更年期に女性ホルモンが急激に減少することで、視床下部はそのコントロール機能に混乱をきたすようになります。そのため、自律神経のバランスが乱れ、血管の収縮・拡張を調整する「血管運動神経」がうまく働かなくなる場合があります。通常、体は外気温に応じて血管を広げたり、縮めたりして体温を調節しています。しかし、この体温調節がうまく働かないことで、必要以上に末梢血管が収縮して寒気・冷えを感じたり、逆に急に拡張してほてりやホットフラッシュが起こったりすると考えられています。
ただし、この自律神経の働きは女性ホルモンの減少以外にも、心や体へのストレスなどの影響で乱れることもあります。
また、更年期に限らず、運動不足や食事の偏り(朝食を抜く、小食、冷たいものの取りすぎなど)、薄着やエアコンの使い方などの生活習慣も、冷えを感じやすくなっている要因になります。
寒気・冷えは更年期によるものだけでなく、別の病気が原因になっていることもあるため、注意が必要です。
表:寒気・冷えが起こる病気
| 膠原病(こうげんびょう) | 免疫の異常により自分の体を攻撃してしまう病気です。免疫のトラブルによって全身の血管に炎症が起きると、血流が悪くなり、手足の先まで温かい血液が届かず、冷たく感じる場合があります。寒いときに指先が白や青紫色になる「レイノー現象」があらわれることもあります。 |
|---|---|
| 甲状腺機能低下症 | のどぼとけの近くにある甲状腺の働きが弱まる病気です。全身の新陳代謝を調整する甲状腺ホルモンが不足することで、エネルギーを作る力が低下して体温を保ちにくくなり、寒さを強く感じます。 |
上記のほかにも、血液中の赤血球が減少する「貧血」や、血液を全身に送り出す力が弱くなる「低血圧」も、寒気・冷えの原因になることがあります。
更年期に寒気・冷えを感じると、体温調節が乱れやすく、体調を崩しやすくなります。季節を問わず、ストールや羽織物を持ち歩くようにし、外気やエアコンの冷気などの冷えを防ぎましょう。また、足元を冷やしすぎないことも大切です。
冷えを改善していくためには、まずは日常生活を見直し、十分な睡眠、バランスの取れた食事、ストレスの少ない生活を心がけ、自律神経を整えることが大切です。
体の熱の約6割は筋肉で作られるため、ヨガやウォーキング、水中ウォーキングなどの運動を取り入れたり、エスカレーター・エレベーターを避けて階段を使ったりするなど、こまめに体を動かすことで、熱を作り出す力を高める効果が期待できます。
洗面器に少し熱めのお湯を張り、手浴や足浴をするのもおすすめです。さらに、入浴時にはシャワーだけではなく、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、全身の血行がよくなり、冷えの改善につながります。
そのほか、市販の漢方薬を試すのもよいでしょう。漢方薬のなかには、更年期障害をはじめ、女性特有の体の不調に効果が期待できるものがあります。
漢方医学では、更年期障害は「気・血・水」のバランスの乱れによるものと捉えます。「気」とは体と精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは不要なものを排出する体内の水分のことを指します。漢方薬はこの「気・血・水」のバランスを整えることで、症状にアプローチします。
表:更年期の冷えに用いられる漢方薬
| 当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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|---|---|
| 加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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| 温経湯 (うんけいとう) |
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漢方薬を効果的に使うためには、1人ひとりの体質や状態に合わせて選ぶことが大切です。漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を使用しましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても、症状が改善しない場合、悪化している場合は、医療機関を受診してください。
閉経によってホルモンバランスが乱れることで、体温調節の司令塔である脳の視床下部の働きが乱れるのが主な原因です。視床下部はホルモン分泌だけでなく、体温を一定に保つ自律神経もコントロールしています。これらの機能が低下することで、体温調節がうまくいかなくなります。とくにホットフラッシュやほてりで熱が放出された後に、体が急激に冷えすぎてしまい、寒気として感じやすくなります。
生活習慣を見直し、体を温める防寒対策を行いましょう。規則正しい生活や十分な睡眠、ストレス軽減で自律神経を整え、軽い運動や入浴で体を温めることも大切です。漢方薬を活用したセルフケアもおすすめです。
更年期の寒気・冷えは、女性ホルモンの減少による自律神経の乱れが主な原因です。自律神経が乱れ、体温調節機能が低下することで、血管の収縮・拡張が正常に働かず、寒気やほてりが生じます。日常生活では、体を冷やさないよう防寒対策をとり、軽い運動などで体を温める工夫が大切です。
ただし、寒気・冷えの背景には、膠原病や甲状腺機能低下症などの病気が隠れている可能性もあります。症状が改善しない、または悪化している場合は、早めに医療機関を受診して医師に相談しましょう。