女性の生涯にとって大きなターニングポイントである更年期には、カラダやココロに様々な変化が訪れます。憂鬱な気持ちや不安感のあらわれもその1つです。
ホルモンバランスの変化に加え、仕事の重圧や家庭の悩みといった環境要因が重なり合うことで、「これまで楽しめていた活動が心から楽しめない」「憂鬱で気分が落ち込む」「些細なことに不安を抱くようになった」など、ココロの不調に見舞われることがあります。
更年期のカラダとココロの変化についての正しい知識を持ち、不安定な時期を乗り越えましょう。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
更年期の女性は、次のようなうつ状態や不安感などの症状があらわれることがあります。
更年期によって起こる症状「更年期症状」は、大きく分けて自律神経失調症状(ホットフラッシュや肩こり、めまいなど)、精神的症状(情緒不安定、イライラなど)、身体的症状(腰痛、消化器症状、皮膚粘膜の乾燥など)の3つに分けられます。ココロの不調は、更年期に伴う精神的症状の1つです。
たいていホットフラッシュなどの自律神経失調症状が出た後に、うつ状態や不安感などのココロの症状が出る場合が多いといわれています。
更年期の症状が重く、「外出ができない」「仕事にいけない」など、日常生活に支障をきたす場合は医療機関で「更年期障害」と診断されます。
更年期にうつ状態になったり、不安を感じやすくなったりする主な原因として、更年期に伴うホルモンバランスの乱れが影響していると考えられています。
更年期とは閉経前の5年間と閉経後の5年間、合計で約10年間のことを指します。日本人女性の場合、平均的には45~55歳くらいの年齢が更年期にあたります。更年期は、卵巣機能の低下により、女性ホルモンが急激に減少する時期です。これに伴って、セロトニンやノルアドレナリンなどの精神伝達物質も不足し、うつ状態や不安感などのココロの不調を引き起こすと考えられています。セロトニンやノルアドレナリンは、精神安定や幸福感、行動のモチベーションなどに深く関わっており、不足すると生きる気力を失ったり、憂鬱な状態に陥ったりして、社会的な活動ができなくなると考えられています。
また、女性ホルモンの減少は、自律神経の機能を乱し、不眠やホットフラッシュ、寝汗、疲労感などのカラダの不調のほか、イライラ、焦燥感などの症状を引き起こします。更年期にはこのような症状が続くことによって、日常生活の質が低下し、精神的なストレスが蓄積しやすくなります。
さらに女性の更年期には、子どもの独立や親の介護、夫婦関係・職場環境の変化など、ライフステージの変化が重なるタイミングでもあり、環境ストレスも相まって、うつ状態や不安感が強くなることもあります。
更年期のココロの症状は、持って生まれた体質や日々のストレス、生活習慣などの背景も絡みながら発症すると考えられており、症状の出方には個人差があります。
更年期には、情緒が不安定になり、うつ状態や不安感を経験することがあります。しかし、更年期障害としてのうつ状態や不安感は、更年期特有の一時的なものです。ホルモンの変化にカラダが適応していく過程で自然と軽快する場合もあり、うつ病や不安障害などの精神疾患とは異なります。
その一方で、更年期は、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症しやすい時期でもあります。抱えている症状が更年期障害としての症状なのか、精神疾患によるものなのかを見極める必要があります。
うつ状態などのココロの症状が強く、社会的な活動が困難になっている場合は、更年期による変化ではなく「うつ病」の可能性も考慮する必要があります。うつ病は、日本人のおよそ15人に1人が経験する比較的ありふれた病気で、更年期などにも比較的多く見られます。
とくに、これまでにうつ病を発症した経験のある方は、更年期に再びうつ病を発症するリスクが高いため、注意が必要です。
ただし、更年期のうつ状態と、うつ病との鑑別は専門医による診断が必要です。うつ状態によって生活に支障が出ている場合は医療機関で専門医の診察を受けましょう。
不安感などの症状が強く、目前の出来事に対する恐怖や心配、漠然とした不安が過度になり、日常生活や仕事に影響が出ている状況が6か月以上続いている場合は「不安障害」の可能性もあります。
不安障害には、主に以下のような種類があります。
表:不安障害の種類
パニック障害 | 突然強い不安に襲われ、動悸・めまいなどの症状を伴ったパニック発作を繰り返す |
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社会不安障害 | 人と話すことや、大勢の人と一緒に行動することに強い苦痛を感じ、社会的な活動に支障が出る |
強迫性障害 | 心配事に駆り立てられ、何度も繰り返し、同じ考えや行動を止められない |
全般性不安障害 | 理由もないのに、様々なことに不安を感じ、そわそわと落ち着かなくなる |
うつ状態や不安感などの症状が続いている場合は、「更年期のせいだろう」と、自己判断せず、医療機関を受診し、医師に相談しましょう。
更年期症状としてのココロの症状は、ホルモンバランスの変化だけでなく、家庭や職場環境などの要因も大きく関わっています。うつ状態や不安感に気付いたら、自分自身に向き合うきっかけと捉え、気持ちや環境の整理に取組みましょう。
家事、育児、介護、仕事の量については、無理のない範囲かどうかを見直し、まずは睡眠時間を確保しましょう。家庭内や職場での人間関係においても、更年期は様々な悩みや役割の変化を経験することがあります。気持ちをがまんしすぎたり、1人で抱え込んだりしないように、周囲の協力を得ながら乗り越えていきましょう。
また、うっすらと汗をかくような適度な運動は、ストレス解消に効果的で、気持ちを前向きにする効果があることが報告されています。日々の生活にウォーキングや水中歩行、ヨガなどを取り入れて、リフレッシュしましょう。
そのほか、薬局やドラッグストアなどで市販されている 漢方薬を試すことも可能です。
表:更年期障害の精神症状がある場合に用いられる漢方薬
加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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柴胡加竜骨牡蛎湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう) |
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漢方薬は、患者のカラダの状態や体質、病気の進行度に合ったものを使用することで効果を発揮します。漢方薬剤師などの専門家に症状を詳しく伝え、自分に合った漢方薬をみつけましょう。
ただし、セルフケアを行っても、うつ状態や不安感などの症状が改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合は、婦人科や更年期外来などの専門の医師に相談しましょう。医師から更年期障害と診断された場合は、医療機関で薬物療法を受ける選択肢もあります。
更年期には、これまでにあまり経験したことのないようなココロとカラダの不調を経験することがあります。更年期の症状のほとんどは一過性のもので、更年期をすぎれば次第に落ち着く場合もあります。
更年期は、カラダがホルモンの変化に適応しようとしている過渡期であることを理解し、自分のココロとカラダとうまく付き合うようにしましょう。生活環境や職場環境、人間関係などを見直し、楽に過ごすことを心がけてみてください。