更年期にあらわれる「更年期症状」は、のぼせ(ホットフラッシュ) 、動悸、不安感、イライラだけではありません。更年期の女性のなかには、これまでに経験したことのなかった「めまい」が起こる可能性があります。
この記事では、更年期におけるめまいの症状や原因、めまいが起きたときの対処法を解説します。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
高尾 美穂
(たかお みほ)
日本医師会認定産業医・医学博士・婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長。日本医師会公認産業医として働く女性を支える傍ら、内閣府男女共同参画局・人事局の教育講演など担当している。
著書:「娘と話すからだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)「人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉」(扶桑社)
めまいとは、自分や周囲が動いていないのにぐるぐると回っているように感じたり、カラダがふわふわとしたり、気が遠くなるような違和感を抱いたりといった症状のことをいいます。症状の出方や程度は様々で、更年期症状以外でも、いろいろな病気によって引き起こされます。
これまでの研究で、めまいの原因の60%以上は、「内耳」という耳の奥深くにある部位の異常によって起こるとされています。内耳は音を脳へ伝えるとともに、自身の頭部の動きを感知しカラダの平衡感覚を司る重要な部位です。しかし、何らかの原因によって内耳の中に不具合が生じ、正常な平衡感覚がつかめなくなることでめまいが生じます。
しかしながら、耳や全身を調べても特に異常が見つからないのに、更年期症状の1つとしてめまいの症状があらわれることがあります。
また、国内の大学病院が、更年期外来を訪れた40~59才の女性患者1069人(平均年齢50.2才)を対象に行った調査では49.6%がめまいの症状があると回答しています。
めまいは更年期症状の1つと考えられていますが、更年期にめまいが起こる原因や詳しいメカニズムはわかっていません。
女性にとって更年期は、女性ホルモンの量が激減するという大きな変化が訪れるタイミングです。それをきっかけに自律神経が乱れることで、心身の変化や不調を感じやすくなる時期です。また、更年期症状はホルモンバランスの変化だけでなく、加齢によるカラダの変化やココロの状態、周囲の人間関係や生活習慣などが複雑に絡み合って発症するといわれています。
海外の研究では、代表的な更年期症状であるのぼせ(ホットフラッシュ)や発汗と、めまいの発症の関係が次のように報告されています。スウェーデンにおける54~55才の更年期の女性1523人を対象にした研究では、更年期におけるのぼせ(ホットフラッシュ)や発汗などの症状がある女性の方が、これらの症状がない女性よりも「めまい」や「ふらつき」などの症状を訴える割合が高いことがわかっています。更年期症状としてののぼせ(ホットフラッシュ)や発汗などは、更年期における女性ホルモンの減少による自律神経の乱れによって起こる症状であり、これに関連してめまいが生じていることも考えられます。
また、女性ホルモンはもともと血管を広げる作用や保護する作用を持っていることから、閉経によって女性ホルモンが激減することで血管や血流に異常が生じ、めまいを引き起こしている可能性もあります。
めまいの症状として自分や周囲がぐるぐる回っているように感じる、ふわふわとカラダが浮いているように感じる、気が遠くなるように感じるなど、主に3つのタイプに分けられます
(表1)。
医療機関を受診する際は「どのタイプのめまいを感じているのか」「どのようなときにめまいが起きやすいのか」「いつからめまいの症状が出たのか」など、できるだけ詳細なエピソードを医師に伝えると診断に役立ちます。
表1
めまいのタイプ | 症状の感じ方 |
---|---|
回転性 |
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浮動性 |
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前失神性 |
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めまいは更年期に関連したものだけではなく、様々な病気によって起こる可能性があります。その中でも、代表的な病気は以下になります
(表2)。
表2
めまいを起こす病気 | 症状の感じ方 | 原因 | 受診科 |
---|---|---|---|
メニエール病 |
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耳鼻咽喉科 |
良性発作性 頭位めまい症 |
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持続性姿勢 知覚性 めまい (PPPD) |
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脳卒中 (急性脳血管障害) |
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脳神経内科・脳神経外科 (緊急受診) |
めまいを引き起こす病気のなかには、脳卒中のように命に関わる病気もあります。上記のような症状を感じたら、医療機関を受診しましょう。
めまいが起きた場合は、楽な姿勢をとって安静にし、症状が落ち着くのを待ちましょう。無理に頭を起こしたり、立ち上がったりすると気分が悪くなることがあります。「更年期のめまいかな?」と思っても、まずは医療機関を受診し、大きな病気が隠れていないかを調べましょう。
医師による診断の結果、めまいの症状が更年期に関連するものであり、その症状によって日常生活に支障をきたしている場合は「更年期障害」と診断され、治療が必要になります。
更年期のめまいに対する治療としては漢方薬が用いられます。更年期障害の治療によく使われる漢方薬のなかでは、加味逍遙散(かみしょうようさん)がめまいの症状に有効であったとの報告があります。
更年期にはこれまでにない体調の変化を経験することがあり、めまいに悩まされる方もいます。突然の症状に慌てないように、更年期の症状への正しい知識を持ち、ココロやカラダの変化とうまく付き合いましょう。
更年期症状はホルモンバランスの変化や加齢、生活習慣、一人ひとりの性格や職場や家庭での人間関係などの要因が絡み合って起きるといわれています。更年期を機に、自身の健康状態や生活環境を見直し、規則正しい生活や習慣、ストレスの少ない環境作りに取り組みましょう。ただし、更年期症状がひどく、家事ができない、仕事に行けない場合は、早めに医療機関を受診してください。
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