更年期にさしかかると、以前には感じなかった皮膚の乾燥に気づくことがあります。体全体がカサカサするだけでなく、目や口のなか、デリケートゾーンまでも乾燥気味になり、不快感や痛みが生じることもあります。このような全身にあらわれる乾燥感は、「加齢のせい」と諦めてしまう方もいるのではないでしょうか。しかし、実は更年期特有のホルモン変化が深く関わっていると考えられています。
今回は、更年期の「乾燥感」の原因、日常生活でできる対処法などを解説します。
※弊社から石原先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
更年期になると、顔や全身の皮膚はもちろんのこと、口のなかや目、膣などの粘膜部分も潤いが不足し、乾燥感が生じることがあります。近年、このような加齢に伴ってあらわれる全身の乾燥症候群をまとめて「ドライシンドローム」と総称されることがあります。
実は、皮膚や粘膜の乾燥感、かゆみなどの不快な症状は、更年期症状の1つです。更年期の症状には、ホットフラッシュやのぼせ、ほてりなどの「自律神経失調症状」と、イライラ、不安などの「精神的症状」、全身の筋肉や皮膚、消化器や泌尿生殖器に不調が出る「身体的症状」の3つがあります。皮膚や粘膜の乾燥感は、更年期症状のうち「身体的症状」にあたります。
皮膚の乾燥感は、一般的に体がカサカサと乾いた状態になり、皮膚の表面の角質がざらついて、「ごわごわ感」を感じることもあります。乾燥感が進むと、外的刺激から皮膚を守るための「バリア機能」が低下し、少しの刺激でもかゆみや赤みが出やすくなります。さらに寝ている間に、無意識のうちに体を掻いてしまい、症状を悪化させてしまうこともあります
ドライシンドロームは、加齢に伴い皮膚の乾燥感だけでなく、目の乾燥感(ドライアイ)、口の乾燥感(ドライマウス)、膣などのデリケートゾーンエリアの乾燥感があらわれる状態のことをいいます。
ドライシンドロームでは、これらの症状が同時にあらわれる場合もあります。
更年期に皮膚や粘膜が乾燥する主な原因の1つは、閉経に伴う女性ホルモンの減少です。この女性ホルモンは、皮膚をみずみずしく健康に保つコラーゲンやヒアルロン酸などの生成を促し、皮膚や粘膜の弾力や水分を維持する重要な役割を担っています。しかし、加齢によって卵巣の機能が衰え、女性ホルモンが急激に減少すると、これらの成分が作られにくくなります。その結果、皮膚や粘膜の潤いが保てなくなり、全身の皮膚が乾燥してごわごわし、しわができやすくなります。ほかにも、目や口、デリケートゾーンなどの粘膜も女性ホルモンの減少に伴って乾燥しやすくなると考えられています。
皮膚や粘膜の乾燥は更年期によるものだけでなく、病気が原因で起きることもあります。乾燥感が気になるときに考えられる代表的な病気を解説します。
表:皮膚や粘膜の乾燥を引き起こす病気
| 乾皮症 | 加齢や皮膚の洗いすぎなどが原因で、汗や皮脂の分泌が減少し、皮膚の表面が乾燥する病気です。皮膚の表面のつやがなくなり、ガサガサした状態になります。 |
|---|---|
| ドライアイ | 本来、目の表面を一枚の膜のように覆っている涙(涙液膜)が、崩れた状態のことです。目の渇き、目がかすむ、まぶしい、目の疲れ、目の痛み、目がゴロゴロする、目が赤い、涙・目ヤニが出るなどの症状が出ます。加齢、ライフスタイル(長時間画面を見る)、生活環境(エアコン)、コンタクトレンズの使用などのほか、シェーグレン症候群などによって起こることがあります。 |
| 口腔乾燥症 | 唾液の分泌が少なくなり、口が渇いた状態(ドライマウス)およびそれに伴う不快な症状(ネバネバ・ヒリヒリ感、歯垢や虫歯の増加、口臭など)がある状態です。加齢やストレスのほか、薬の副作用、糖尿病、シェーグレン症候群(自己免疫疾患)などによって起こることがあります。 |
これらの病気が原因になっている場合は、それぞれ専門的な治療が必要です。皮膚や粘膜の乾燥症状に応じて、皮膚科・眼科・婦人科などの専門医に相談しましょう。
更年期の皮膚や粘膜の乾燥感が気になるときは、日頃からセルフケアを行うことで、症状をやわらげることができます。正しいスキンケア方法を行い、皮膚と粘膜の健康を取り戻しましょう。
まずは入浴の仕方と入浴後のケア方法から見直しましょう。
熱いお風呂に入ったり、体をゴシゴシと擦ったり、石けんで洗いすぎるなどの行為を行っている場合は、皮膚や粘膜に負担をかけ、乾燥などのトラブルの原因になります。ぬるめのお風呂に入り、体を擦りすぎたり、石けんで洗いすぎたりするのはやめましょう。
入浴後や手洗い、家事のあとは、保湿クリームなどを使ってこまめに保湿ケアを行いましょう。
目の乾燥感が気になる場合は、市販の目薬で保湿ケアをしましょう。また、日常生活を振り返り、生活環境を整えることも大切です。たとえば、エアコンや暖房機器の影響で、職場や自宅が乾燥しがちな場合は、加湿器などを使って工夫をしましょう。また、コンタクトレンズを着用していると、涙の膜が本来よりも薄くなって目が乾燥しやすくなります。普段、コンタクトレンズを使用している方は、帰宅後や休日は眼鏡を使って目を休ませるとよいでしょう。
口の乾燥感が気になる場合は、こまめに水分補給をしたり、保湿力のあるマウスウォッシュや保湿スプレー、ジェルなどを使ったりしてケアをしましょう。唾液腺のマッサージも効果的です。耳の前からエラのあたりにある唾液腺を指先で触り、頬の中心に向かって指先で優しく圧をかけ、頬の中心に向かって押し流すようにマッサージをします。すると、唾液の分泌が刺激され、口のなかが潤います。
デリケートゾーンの乾燥感が気になる場合は、デリケートゾーン専用の製品を使った保湿ケアがおすすめです。
市販の医薬品や漢方薬を使ってセルフケアすることもできます。漢方薬には、更年期障害をはじめとする女性特有の心身の不調に効果を発揮するものがいくつかあります。
漢方医学では、更年期障害は「気・血・水」のバランスの乱れによるものと考えられています。「気」とは体と精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは不要なものを排出する体内の水分のことを指します。漢方薬はこの「気・血・水」のバランスを整えることで、症状にアプローチします。
漢方薬による治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」というアプローチと、症状そのものをやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。
更年期障害の根本的な原因としては、ホルモンバランスの乱れという体質の変化が関わっていることから、本治のアプローチとしては次の3種が広く用いられています。
表1:更年期障害に対する本治のアプローチとして用いられる漢方薬
| 当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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|---|---|
| 加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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| 桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) |
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一方、皮膚や目、口などの乾燥感に対しては、その症状をやわらげる「標治」のアプローチとして、以下のような漢方薬が使用されることもあります。
表2:乾燥(乾燥感)に対する標治のアプローチとして用いられる漢方薬
| 皮膚の乾燥感 かさつくかゆみ |
当帰飲子 (とうきいんし) |
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|---|---|---|
| 目の乾燥感 | 洗肝明目湯 (せんかんめいもくとう) |
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| 口の乾燥感 | 白虎加人参湯 (びゃっこかにんじんとう) |
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漢方薬を効果的に使用するためには、1人ひとりの体質や状態に合わせて選ぶことが大切です。漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を使用しましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても、改善がみられない場合は、医療機関を受診しましょう。
主に卵巣機能の低下で女性ホルモンが減少することで、皮膚や粘膜をみずみずしく健康に保つヒアルロン酸などの産生が滞るためです。全身の皮膚だけでなく、目や口、デリケートゾーンといった粘膜も乾燥しやすくなります。
日常的なスキンケアで乾燥感を予防しましょう。入浴時は洗いすぎに注意し、皮膚への負担を避けましょう。日頃から、保湿剤を使ってこまめに皮膚を保湿ケアし、目やデリケートゾーンなどの粘膜部位には専用の製品で保湿ケアしましょう。
更年期に起こる体の乾燥感は、主に女性ホルモンが減少することで、皮膚が本来持つみずみずしさを保てなくなるために起こります。その影響は皮膚だけでなく、目や口、デリケートゾーンといった粘膜にも影響し、様々な不快な症状を招くことがあります。
日々の対策としては、皮膚に負担をかけず、こまめな保湿ケアを行うことが基本です。漢方薬を使ってケアをするのもよいでしょう。ただし、セルフケアで改善しない、症状が悪化している場合はほかの病気の可能性も考えられるため、早めに医師に相談しましょう。