更年期にあらわれる心身の不調。なかでも性交時の痛みをはじめ、性に関するデリケートな悩みは、パートナーにも相談しづらく、1人で抱え込んでしまう方も多いのではないでしょうか。性交痛などのトラブルは、更年期特有の体の変化だけでなく、精神的な要因や婦人科系の病気が原因となっている場合もあります。
今回は、更年期に起こる性交障害の症状や原因、対処法をわかりやすく解説します。
※弊社から宋先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
性交障害とは、性交時の膣の痛み(性交痛)や性欲の低下などによって、性生活に支障をきたす状態のことです。性交痛は年齢に関係なく誰にでも起こり得るものですが、40代以降の更年期に入ると症状が目立つようになります。性交痛は約8~22%の女性が生涯に一度は経験するといわれており、女性にとって身近なトラブルといえます。また、性交痛などの性交障害も、更年期の代表的な症状の1つとして知られています。
近年では、閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)という概念が提唱されています。GSMとは、閉経に伴う女性ホルモンの低下によって生じる、女性の外陰部や泌尿器系のトラブルを総称したものです。GSMの主な症状には、膣粘膜の乾燥による性交痛、外陰部の乾燥・違和感・痛み、骨盤底筋(膀胱・子宮・直腸などを下から支える筋肉)の働きの低下による頻尿・尿漏れなどの尿トラブルがあります。
更年期の症状によって、日常生活に大きな支障が出ているときは「更年期障害」と診断され、治療の対象になります。
更年期の性交障害は、更年期に伴うホルモン変化などの身体的な要因、または精神的な要因が原因になっているケースがあります。
更年期の性交痛の多くは、閉経に伴う女性ホルモンの減少が主な原因と考えられています。女性ホルモンには、膣の粘膜を潤し、様々な刺激から守る大切な働きがあります。しかし閉経によって女性ホルモンが減少すると、膣粘膜が乾燥して薄くなり、伸縮性が低下するほか、炎症などのトラブルが起こりやすくなります。その結果、性交時に痛みを感じるようになります。
性的なことに対する不安感や抵抗感、過労・ストレスなどがきっかけで性交障害になることもあります。また、ライフステージの変化によって、性的な欲求そのものが低下し、性生活に支障をきたしたり、パートナーとの関係性や家庭内の問題などの影響で性交を避けたい気持ちが、性交痛としてあらわれることもあります。
性交痛のなかには、その背景に病気が隠れていることもあります。性交痛を引き起こす代表的な病気を解説します。
表:性交痛を引き起こす病気
| 萎縮性膣炎 | 閉経に伴う女性ホルモンの減少によって、膣や外陰部の粘膜が乾燥して萎縮した状態になり、炎症を起こす病気です。かゆみ、おりものの変化、におい、性交痛、出血などの症状が見られます。現在では、閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)の1つとされています |
|---|---|
| 子宮内膜症 | 本来子宮の内側にあり、月経ではがれ落ちるはずの子宮内膜の組織が、子宮以外の場所で増殖してしまう病気です。排出できなかった子宮内膜が体内に溜まったり、周囲の臓器とくっついたりして、性交痛のほか、下腹部痛、腰痛、排便時の痛みなどを引き起こします |
性交痛を引き起こす病気は、これらのほかにも存在します。症状だけで原因を判断することは難しいため、いずれも専門的な治療が必要です。性交時に痛みがある場合は、医療機関を受診し、医師の診断と治療を受けましょう。
更年期の性交障害には、症状に合わせた対処が大切です。まず、外陰部や膣粘膜の乾燥が気になるときは、デリケートゾーン専用のローションや保湿剤を使って保湿ケアを行いましょう。性交痛が気になる場合には潤滑剤やゼリーを使用すると、膣や外陰部への負担を軽減し、性交痛を予防する効果が期待できます。
また、骨盤底筋を鍛える骨盤底筋トレーニングを毎日続けることで、膣や外陰部の血流を促し、GSMの予防や軽減が期待できます。
精神的な要因で性行為に否定的な気持ちがある場合や、性交痛によって性生活に支障が出ている場合は、日々のストレスを解消する、パートナーの理解と協力を得る、心理カウンセリングを受けるなどのアプローチが必要です。相談できる相手や場所を見つけて、心のケアもしましょう。
そのほか、更年期に伴う心身の不快な症状がある場合は、市販の漢方薬で軽減する方法もあります。漢方薬は更年期の症状といった女性特有の心身の不調に対し、効果を発揮するものがいくつかあります。
更年期の治療に主に使用される漢方薬には、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の3種類があります。
漢方薬は、自分の状態や体質に合ったものを使用することで効果を発揮します。漢方薬を使用する際は、漢方薬剤師などの専門家に症状を詳しく伝え、自分に合った漢方薬を選びましょう。
なお、セルフケアを行っても性交痛などの性交障害が改善しない場合や、性生活に支障をきたすほど症状が強い場合は、婦人科や更年期外来などの専門の医師に相談しましょう。医師から更年期障害と診断された場合は、薬物療法を受ける選択肢もあります。
更年期の性交痛は、主に女性ホルモンの減少によって膣粘膜が乾燥し薄くなることで起こります。また、精神的な不安やストレスの影響で痛みを引き起こすこともあります。
膣の乾燥対策として、デリケートゾーン専用のローションや保湿剤を使った日ごろの保湿ケアが有効です。性交痛は、潤滑剤やゼリーを使用するのもよいでしょう。精神的な問題が原因の場合は、パートナーの理解や専門的なカウンセリングが必要です。1人で悩まずに、専門家に相談しましょう。
更年期は、女性の心身に様々な変化が訪れる大切な時期です。この時期には、性交痛をはじめとする性交障害に悩む方も少なくありません。
1人で悩みを抱え込まないで、正しい知識を身につけ、しっかりとケアをすることが大切です。デリケートゾーン専用のローションや保湿剤などを活用してケアする、漢方薬を取り入れるなど、日々のセルフケアを習慣づけましょう。
ただし、セルフケアを行っても症状が悪化している場合、心理的な不安がある場合は、専門の医療機関を受診し、医師に相談してください。