むくみは、更年期の女性の多くが経験する症状の1つです。閉経前後のホルモンバランスの変化によって、顔のむくみや足の張りなどの不快な症状を感じることがあります。
今回は、更年期のむくみに悩む方のために、むくみがなぜ起こるのか、その原因やメカニズム、日常生活で取り入れられる対処法、漢方薬による改善策を解説します。更年期のむくみに関する正しい知識を身につけ、セルフケアで不快な症状を改善しましょう。
※弊社から宋先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
むくみとは、体の中に余分な水分がたまって、皮膚の下がふくらんでみえる状態のことです。何らかの原因によって体の細胞や血管、リンパ管の内部の水分が、細胞と細胞の隙間に染み出すことで、皮膚の下に水分が過剰にたまります。それによって指で皮膚を押すとへこんだ痕がつき、元に戻るのに時間がかかるのが特徴です。
一般的に、閉経前後5年間ほどの期間を「更年期」と呼び、ホルモンバランスの変化によって、心身の不調や変化を経験することがあります。更年期に経験する不快な症状を「更年期症状」といいます。
むくみは更年期症状の1つとして知られており、この時期に感じるむくみは、「朝、目が覚めたら顔がむくんでいる」「足や膝の裏が張って痛い」「夕方になると、ふくらはぎや足首がむくんで、靴下の跡がなかなか消えない」「指輪が抜けにくくなった」などの形であらわれることがあります。さらに、「体が重い」「頭がぼーっとする」といった不快感を伴う場合もあります。
更年期になると、加齢に伴うホルモンバランスの変化によって、自律神経が乱れることがあります。自律神経は体温調整や心臓の拍動、呼吸、新陳代謝など、生命を維持するための機能に加え、血液の流れもコントロールしています。自律神経が乱れることで、新陳代謝や血液の流れが悪くなったり、血管から血液中の水分がしみだしやすくなったりして、むくみが引き起こされます。
むくみは内臓や全身の病気が原因で起こるケースがあるため、注意が必要です。
むくみには、体全体にあらわれる「全身性のむくみ」と、特定の部位にあらわれる「局所性のむくみ」があります。全身性のむくみの原因としては、心臓、腎臓、肝臓といった内臓の病気があげられます。これらの臓器の働きが低下すると、体液の循環や排出がうまくいかなくなり、全身にむくみがあらわれやすくなります。また、新陳代謝をコントロールしている甲状腺ホルモンの働きが低下する「甲状腺機能低下症」という病気も、全身のむくみを引き起こします。甲状腺機能低下症では、むくみのほかに、無気力感、疲労感、寒がり、体重増加などの症状が見られることがあります。
一方、特定の部位にあらわれる「局所性のむくみ」としては、主に片側の腕や足に発生することが多い「リンパ浮腫」という病気があります。これは、乳がんや子宮がんの手術の後遺症としてあらわれやすいものです。
そのほか、病気ではありませんが、塩分や水分の摂り過ぎ、過度なアルコール摂取、過労やストレスなどによって、一時的にむくみが生じることもあります。
むくみは、単なる体質や体調の変化、食べすぎ、飲みすぎ、加齢によるものと軽く考えられがちですが、実際には様々な病気のサインであることもあります。むくみの背景には病気が隠れている可能性があるため、医療機関を受診し、医師に相談することが大切です。
とくに大きな病気や異常がないにもかかわらず、更年期にむくみがあらわれたら、できることから実践してみましょう。むくみを改善するためには、新陳代謝や血行を良くし、不要な水分を体外へ排出することが重要です。
まずは温冷水浴から始めてみましょう。温冷水浴とは、42℃の熱めの湯船に10分間ほどつかり、体が温まったら、冷水シャワーを3分浴び、これを3~5回繰り返す入浴法です。これにより体が芯から温まり、発汗や血行を促す効果が期待できます。
ストレッチやウォーキングなどの運動で代謝を高めることも大切です。筋肉を動かすことで血行が促進され、ストレスの軽減にもつながり、むくみの改善が期待できます。
食事については、バランスの取れた規則正しい食生活を心がけ、むくみの原因となる塩分やアルコールの摂り過ぎは控えましょう。
上記の方法でもむくみが改善しない場合は、市販の漢方薬による治療を検討しましょう。漢方薬には、更年期の不調など、女性特有の悩みの改善に力を発揮するものがいくつかあります。
更年期障害に対する漢方薬としては、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの漢方薬が広く用いられており、このうち当帰芍薬散はむくみにも効果を発揮します。
表1:更年期障害に用いる漢方薬
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) |
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むくみの症状に対しては、五苓散(ごれいさん)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)などの漢方薬もよく用いられています。
表2:むくみに用いる漢方薬
五苓散 (ごれいさん) |
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防已黄耆湯 (ぼういおうぎとう) |
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八味地黄丸 (はちみじおうがん) |
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漢方薬を効果的に使用するためには、自分の体の状態や体質、病気の進行度に合ったものを選ぶことが大切です。
漢方薬剤師などの専門家に相談して、自分に合った漢方薬を選びましょう。
更年期にむくみがあらわれたら「年齢のせいだから」と自己判断して放置しないようにしましょう。むくみは、全身性と局所性があり、原因は様々です。なかには心臓、腎臓、肝臓、甲状腺の異常など、治療を要する病気が隠れている可能性もあります。対処法を行ってもむくみ症状が続いている、悪化している場合は、まずはかかりつけの内科や婦人科などの医療機関を受診しましょう。
むくみを改善するためには、新陳代謝や血行を良くし、不要な水分を体外へ排出することが重要です。普段から温冷水浴をする、ストレッチやウォーキングなどのエクササイズを行う、バランスの取れた規則正しい食生活を心がけることも大切です。それでもむくみが改善しない場合は、市販の医薬品による治療を検討しましょう。たとえば、漢方薬には、更年期の不調など、女性特有の悩みの改善に力を発揮するものがいくつかあります。
更年期は、心身に様々な変化があらわれる時期です。むくみも更年期によくみられる症状として多くの方が経験していますが、その背景には、更年期に限らず、多岐にわたる原因が考えられます。
むくみを「更年期のせいだから仕方がない」と決めつけず、自分の体からのサインに耳を傾け、適切にケアすることが大切です。
しかし、むくみの症状が続いている、いつものむくみとは違うと感じる場合は、医療機関を受診し、正確な診断を受けましょう。むくみの原因を正しく理解し、医師と相談しながら自分に合った対処法を見つけましょう。