なぜ更年期になると体がだるくなる?
『疲労感』の原因と対処法

『疲労感』 イメージ写真

更年期には、それまで感じたことのないような疲労感や体のだるさなど、様々な不調を経験することがあります。「毎日だるくて疲れがとれないのは年齢のせい?」とあきらめてしまったり、活発に動けない自分に対して罪悪感を抱いたりしてしまうこともあるかもしれません。

今回は、更年期に見られる疲労感やだるさの原因、対処法を解説します。

※弊社から宋先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。

更年期における疲労感とは

更年期は、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を指し、女性にとって大きな変化の時期です。多くの女性が更年期に、ホットフラッシュやのぼせといった症状だけでなく、疲労感やだるさ、疲れがとれないといった不調を感じるといわれています。これらの症状は、更年期にあらわれる心身の不快な症状の代表例であり、なかでも疲労感はとくに頻度が高い症状の1つとして知られています。

疲労感やだるさのために、思うように活動できないことがあっても、決して気のせいや怠けているからではなく、更年期による体の変化があらわれているサインだと受け止めましょう。医療機関などで検査をしても明らかな異常がないにも関わらず、疲労感が続いていて日常生活に支障が出ている場合は「更年期障害」と診断されます。

更年期に疲労を感じる原因

更年期に経験する疲労感の直接的な原因については、まだ完全には解明されていません。しかし、閉経に伴う女性ホルモンの減少を背景に、自律神経の乱れや日々の生活で生じる精神的なストレス、過労、睡眠不足などの要因が重なることで、疲労感やだるさなどにつながると考えられています。

とくに更年期の女性は、職場や家庭での環境の変化に伴って対人関係のストレスを受けたり、ワークライフバランスを模索するなかで十分な休息が取れず、心身の不調のサインとして疲労感が出やすくなります。

疲労感を伴う病気

疲労感は更年期に伴う不調だけでなく、別の病気が原因になっていることもあるため、注意が必要です。疲労感を引き起こす病気はいくつかあり、代表的な病気を解説します。

表:疲労感を伴う病気

甲状腺の疾患 甲状腺の疾患とは、のど仏の下にある甲状腺の機能に異常が生じる病気です。甲状腺は全身の代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを分泌しており、このホルモンの分泌が乱れることで、倦怠感や疲労感、動悸や体重変化などの症状があらわれます。女性に比較的多く見られ、更年期の症状と似ているため、注意が必要です
糖尿病 血糖値を下げる働きのあるインスリンというホルモンの作用が低下することで、血液中の糖分(血糖値)が高くなる病気です。血糖値が高い状態が続くと、体がだるくなったり、疲れやすくなったりするなどの症状があらわれます
うつ病 気分が落ち込む、何事にも興味がわかないなどの状態が長く続く精神疾患です。憂うつな気分に加え、強い疲労感や倦怠感が生じ、朝起きるのがつらい、集中力が低下するなどの症状があらわれ、日常生活に支障をきたすことがあります

これらの病気は更年期の症状と似ていることも多く、見逃されやすいことがあります。それぞれ専門的な治療が必要なため、上記のような症状が続いている場合は、早めに医療機関を受診し、医師に相談してください。

更年期の疲労感の対処法

更年期の疲労感に対処するためには、まず日々の生活習慣を見直すことが大切です。規則正しい生活習慣を整え、十分な睡眠と休息を心がけましょう。

仕事と私生活のバランスを見直し、ストレスや過労を避けることや、家族などの理解とサポートを得ることも重要です。また、ウォーキングなど無理のない軽い運動を生活に取り入れたり、趣味を楽しむ時間を意識的に作ったりすることでリフレッシュでき、自律神経が整うことで疲労感の改善にもつながります。

漢方薬を使って体の内側からアプローチするのもおすすめです。漢方薬のなかには、更年期障害をはじめ、女性特有の心身の不調に効果が期待できるものもあります。

漢方医学では、更年期障害は「気・血・水」のバランスの乱れによるものと捉えます。「気」とは体と精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは不要なものを排出する体内の水分のことを指します。漢方薬はこの「気・血・水」のバランスを整えることで、症状にアプローチします。

漢方薬による治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」というアプローチと、症状そのものをやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。

更年期障害の根本的な原因としては、ホルモンバランスの乱れという体質の変化が関わっているため、本治のアプローチとしては次の3種類の漢方薬が広く用いられています。

表1:更年期障害に対する本治のアプローチとして用いられる漢方薬

当帰芍薬散
(とうきしゃくやくさん)
  • 更年期障害やむくみ、月経痛、腰痛、めまい・立ちくらみ、肩こり、足腰の冷え症などに用いられる
  • 体力が虚弱で、冷え症で疲労しやすい方に向いている
加味逍遙散
(かみしょうようさん)
  • 更年期障害や月経不順、冷え症、不眠症などに用いられる
  • 体力が中等度以下で、疲れやすく、便秘しがちな方に向いている
桂枝茯苓丸
(けいしぶくりょうがん)
  • 更年期障害や月経不順、月経異常、肩こり、めまいなどに用いられる
  • 比較的体力があり、肩こり、頭重、めまい、足の冷えがある方に向いている

一方、疲労感などの症状に対しては、その症状をやわらげる「標治」のアプローチとして、以下のような漢方薬が使用される場合もあります。

表2:疲労感に対する標治のアプローチとして用いられる漢方薬

補中益気湯
(ほちゅうえっきとう)
  • 虚弱体質や疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒などに用いられる
  • 体力が虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすい方に向いている
十全大補湯
(じゅうぜんだいほとう)
  • 病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血などに用いられる
  • 体力が虚弱な方に向いている
人参養栄湯
(にんじんようえいとう)
  • 病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血に用いられる
  • 体力が虚弱な方に向いている

漢方薬を効果的に使うためには、1人ひとりの体質や状態に合わせて選ぶことが大切です。漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を使用しましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても、症状が改善しない場合や、悪化している場合は、医療機関を受診してください。

よくあるご質問(FAQ)

Q.更年期になると疲れやすくなるのはなぜ?
A.

閉経による女性ホルモンの減少にともなって自律神経が乱れやすくなり、さらに日々のストレスや過労、睡眠不足などが重なることで、疲労感やだるさを感じやすくなると考えられています。

Q.更年期の疲労感を改善する方法は?
A.

規則正しい生活習慣とストレスの少ない生活を心がけ、自律神経を整えることで疲労感の改善が期待できます。軽い運動や趣味でリフレッシュする時間を持つのもおすすめです。ただし、疲労感によって日常生活に支障が出ている場合は、早めに医師に相談しましょう。

更年期の症状を知りココロとカラダとうまく付き合いましょう

更年期は、女性にとって心身に様々な変化が訪れる大切な時期です。とくに「体のだるさ」や「疲れがとれない」といった症状は、多くの方が経験する代表的な更年期の症状です。その背景には、閉経による女性ホルモンの減少が関わっており、気の持ちようだけで解決できるわけではありません。

この時期を快適に過ごすためには、まず疲労感やだるさといった体からのサインを受け止めて、無理のない範囲で生活習慣を整えていくことが大切です。漢方薬を使ってセルフケアを行うのもおすすめです。

ただし、疲労感の原因は、更年期だけでなくほかの病気が関わっているケースもあるため、注意が必要です。疲労感が長く続いている、日常生活に支障をきたしている場合は、早めに医療機関を受診しましょう。