最近、手足に「ピリピリ」や「ジンジン」といったしびれや不快な感覚に悩まされていませんか。
女性にとって大きなターニングポイントである更年期には、これまでになかった手足のしびれを経験することがあります。手足のしびれの原因は多岐にわたり、更年期に関連しているものもあれば、思いがけない病気が隠れている可能性もあります。
今回は、手足のしびれの症状や更年期との関係、適切な対処法を解説します。
※弊社から宋先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
しびれとは、手や足に感じる「ピリピリ」「チクチク」「ズキズキ」「ジンジン」といった不快な感覚や痛みのことをいいます。女性の体が変化する更年期には、これまでこのような症状を感じたことのない方でも、一時的に手足のしびれを感じることがあります。
更年期に関連して起こる様々な不快な症状を「更年期症状」といい、代表的なものとしては、ホットフラッシュやのぼせ、発汗などの症状が知られています。手足のしびれもまた、更年期症状の1つです。
更年期に手足にしびれが起こる原因は、まだ完全には解明されていません。ホットフラッシュやのぼせ、発汗などの代表的な更年期症状が、閉経に伴う女性ホルモンの減少によって起こるのと同様に、女性ホルモンの減少との何らかの関連によって、手足にしびれが生じると考えられています。
とくに、更年期女性によくみられる、手のしびれをはじめとする手指の不調については、近年、日本手外科学会が「メノポハンド(Menopausal Hand)」として提唱し、一般にも認知されるようになっています。
これらの手足のしびれなどのトラブルは、単なる老化によるものではなく、更年期に女性ホルモンが乱高下しつつ減少することで生じている可能性があります。もともと女性ホルモンには、手指の血管を広げて血流を良くする作用があります。しかし、女性ホルモンの分泌が低下することで、関節を包む「滑膜(かつまく)」や関節周囲の組織にむくみが起きやすく、手指にしびれなどの不調があらわれやすいと考えられています。
更年期に関連する手足のしびれは、骨や靭帯自体に大きな異常はないため、医療機関で詳しく調べても、しびれの原因が特定できないことが多くあります。
手足にしびれが起きる原因は多岐にわたります。まず、更年期の女性によくみられ、女性ホルモンの低下と関連していると考えられている病気には、「手根管症候群」「腱鞘炎」「母指CM関節症」などがあげられます。
そのほか、更年期との関連はありませんが、手足のしびれの原因としては、糖尿病やアルコールの過剰摂取で手足の神経がダメージを受けてしびれが生じるものや、「脊柱管狭窄症」「椎間板ヘルニア」など、背中にある大きな神経が圧迫される病気によって生じていることもあります。
足だけにしびれがある場合は、「腰部脊柱管狭窄症」「腰椎椎間板ヘルニア」など、腰から伸びる神経が圧迫されることで起きている可能性や、「腓骨神経障害」「足根管症候群」など、足裏や足先につながる神経が圧迫されることで起きている可能性もあります。
表:手足のしびれが生じる病気
手根管症候群 (しゅこんかんしょうこうぐん) |
指につながる神経や腱が手根管というトンネル状の組織に圧迫されることで、手のひらや親指、人差し指、中指、薬指にしびれが起きます |
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腱鞘炎 | 手指につながる腱を束ねている腱鞘というバンド状の組織が腫れることで、腱がスムーズに動かなくなり、しびれや痛みが出ます |
母指CM関節症 | 親指の付け根の関節が腫れ、親指を動かそうとするとしびれや痛みが出ます |
腰部脊柱管狭窄症 | 下半身を支配している神経が通る脊柱管(背骨内部の空間)が、加齢などの影響によって変形して狭くなり、神経が圧迫されることで、腰から下にしびれや痛みなどが生じます |
腰椎椎間板ヘルニア | 椎骨(背骨)と椎骨の間でクッションのような役割をしている椎間板の組織の中身が飛び出し、下半身を支配している神経が圧迫されます。それによって、下半身にしびれや痛みが出たり、力が入りにくくなったりします |
腓骨神経障害 (ひこつしんけいしょうがい) |
腓骨(すねの骨)の側を通る神経が、圧迫されて傷つくことで、すねの外側から足の甲にかけてしびれや痛みが出ます |
足根管症候群 (そっこんかんしょうこうぐん) |
足首の内くるぶしの内部を通って足裏につながる神経が圧迫され、傷つくことで、かかとを除く足の裏から指先がしびれて痛みが出ます |
30~40代の女性に比較的多い免疫系の病気「関節リウマチ」も、全身の関節が炎症を起こして腫れることで、手足のしびれやこわばりなどの症状が出ることがあります。更年期のしびれだと思っていても、症状がひどくなったり悪化したりする場合は、何らかの病気が隠れている可能性も考慮し、医療機関を受診することが大切です。
更年期の手足のしびれのほとんどは原因が特定できません。そのため、日常生活を工夫して、不快な症状をやわらげるケアを行うことが大切です。
更年期によくみられる手指のしびれは、朝起きたときに症状が強い特徴があります。睡眠中は体を動かさないので、手の末端の血行が悪くなっているためだと考えられています。朝起きたら、布団から出る前に、指をマッサージする、グーパー運動をする、両手を擦り合わせるなど、手指の運動をすると、血行がよくなり、症状がやわらぎます。
足のしびれに対しても、毎日5分だけでも足を曲げ伸ばしすると、血行が良くなります。朝起きたときにしびれが気になる場合はもちろん、日常生活の中でもこまめに取り入れてみましょう。
そのほか、市販の漢方薬を試してみるのもおすすめです。漢方薬による治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」というアプローチと、症状そのものをやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。
更年期の症状の根本的な原因としては、ホルモンバランスの乱れという体質の変化が関わっていることから、更年期障害に対する本治のアプローチとしては次の3種が広く用いられています。
表1:更年期症状に対する本治のアプローチとして用いられる漢方薬
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) |
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一方、手足のしびれの症状に対しては、症状をやわらげる「標治」のアプローチとして用いられる代表的な漢方薬はこちらです。
表2:手足のしびれの症状に対する標治のアプローチとして用いられる漢方薬
牛車腎気丸 (ごしゃじんきがん) |
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八味地黄丸 (はちみじおうがん) |
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桂枝加朮附湯 (けいしかじゅつぶとう) |
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漢方薬を効果的に使用するためには、患者の体質、病気の進行度に合わせて選ぶことが大切です。
漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を使用しましょう。
手足のしびれが続いている場合は、何らかの病気が隠れている可能性もあります。レントゲンなどの検査や処置が必要になることもあるため、まずは整形外科や神経内科などの医療機関を受診しましょう。
しびれのほかにホットフラッシュやのぼせなどの更年期症状の悩みがある場合は、婦人科やかかりつけの内科に相談してみるのもよいでしょう。しびれの原因を明らかにして、不安な気持ちをやわらげましょう。
更年期の手足のしびれのほとんどは原因が特定できません。そのため、日常生活を工夫し、不快な症状をやわらげるケアを行うことが大切です。更年期のしびれの場合、たいてい朝起きた時に症状があらわれます。朝起きたら、布団から出る前に、指をマッサージする、グーパー運動をするなど、手指の運動を行うと、血行がよくなり、症状がやわらぎます。
手足のしびれは、更年期に多くの方が経験する可能性があります。女性ホルモンの変化が関係していることもありますが、その原因は多岐にわたり、中には骨や神経などの病気が隠れている場合もあります。そのため、しびれの症状が続いている場合は、「更年期だから仕方がない」と自己判断せずに、まずは医療機関を受診して原因を確かめる必要があります。
とくに大きな異常がなく、更年期に関連する手足のしびれであれば、日常的にケアを続けることで、しびれの症状は改善する場合もあります。更年期の自分の変化に向き合い、つらい時期を適切に乗り越えていきましょう。