「寝てもすっきりせず、急な眠気に襲われる」「日中眠たくて、カラダがだるい」「頭がぼんやりとして、寝覚めが悪い」このような症状に悩んでいる方はいませんか。
日中の眠気は仕事や家事に集中できなかったり、趣味などの自由な時間を楽しめなかったりするので、何とか解消したいものです。実は、眠気やだるさなどの睡眠に関するトラブルは、更年期の女性にみられる代表的な症状の1つです。
今回は眠気や不眠の症状に悩む方のために、更年期における眠気の原因、対処法などを解説します。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
高尾 美穂
(たかお みほ)
日本医師会認定産業医・医学博士・婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長。日本医師会公認産業医として働く女性を支える傍ら、内閣府男女共同参画局・人事局の教育講演など担当している。
著書:「娘と話すからだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)「人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉」(扶桑社)
更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間、合計で約10年間のことを指します。日本人女性の平均閉経年齢は約50才といわれており、45~55才くらいが更年期の対象年齢です。更年期は女性にとってターニングポイントであり、ホルモンバランスが大きく変化することで、様々な心身の変化を経験します。
もともと大きな病気がないのに、更年期に起こる、のぼせ(ホットフラッシュ)、動悸、不安感、イライラなどの不快な症状のことを「更年期症状」といいます。「眠気」などの睡眠に関するトラブルも、更年期の女性によくある症状です。
厚生労働省の調査によって、更年期の女性の4~6割が睡眠トラブルを抱えており、日中の集中力の低下などによって、日中の仕事の効率にも影響が出ているといわれています。
出典:「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf)(2024年9月4日に利用)
更年期は加齢に伴う卵巣機能の低下により、女性ホルモンの分泌が乱高下しながら減少することで、更年期症状があらわれやすい時期です。しかし、更年期の「眠気」に関しては女性ホルモンの減少との直接的な関係は明らかになっていません。
ただし、更年期の女性の約半数が、眠りが浅くなったり、短くなったりといった不眠の症状を経験しており、これが日中の「眠気」を引き起こしているとされています。また、更年期の女性に実施した国内の調査では、半数以上の女性が日常生活に支障をきたすような不眠を経験していることが報告されています。
更年期の女性の眠りが浅く・短くなる1つの大きな原因として、のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗、動悸などの自律神経失調の症状によって、眠りがさまたげられ、睡眠の量と質が低下していることがあげられます。
「眠れない」という症状は、
主に4つのタイプに分類されます。
表1:不眠の種類と特徴
入眠障害 | 寝ようとしても、目がさえて寝られない |
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中途覚醒 | 夜中に何度も目が覚める |
早朝覚醒 | 意図せずに朝早くに目が覚める |
熟眠障害 | 目が覚めたときに、ぐっすり眠った感覚がない |
更年期の女性に特に多い不眠の症状は、のぼせ(ホットフラッシュ)などによる「入眠障害」、「中途覚醒」です。更年期の女性は、子どもの進学や独立、親の介護、配偶者の定年や職場での社会的なプレッシャーなど様々なストレスを抱えやすいため、のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗、イライラ、不安などの更年期症状を発症しやすく、その影響で不眠の症状が起こりやすいと考えられています。
加えて、家庭や職場での役割を果たすため、多忙な日々を送っており、そもそも睡眠時間が不足していることも不眠や「眠気」の原因の1つになっているといわれています。日本人の1日あたりの睡眠時間の目標は6~9時間とされています。しかし、厚生労働省が令和1年に行った国民健康・栄養調査の結果によると、更年期にあたる40~59才の女性の睡眠時間が最も短く、40~49才の46.4%、50~59才の53.1%が「睡眠時間が6時間未満」と回答しています。
このように更年期には、日々の慢性的な睡眠不足を補おうとして、眠気の症状が起きていると考えられます。ただし、不眠や眠気の症状は様々な病気が原因で起きることもあります。症状がつらいときは医師に相談しましょう。
出典:「睡眠に関するこれまでの取組について」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001126766.pdf)(2024年9月4日に利用)
更年期症状以外でも、不眠を引き起こす病気があります。代表的な病気を解説します。
表2:不眠が起こる病気と症状
閉塞性睡眠時 無呼吸症候群 |
睡眠中にのどがふさがってしまい、無意識に呼吸が止まってしまう病気です。呼吸が止まって酸欠状態になり、夜中に何度も目が覚めてしまうため、しっかりと睡眠をとることができません。50才代以上の男性に多い病気ですが、女性も閉経後に発症リスクが高まります。閉塞性睡眠時無呼吸の発症には更年期の女性ホルモンの低下が影響していると考えられていますが、詳しいメカニズムは解明されていません。 |
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むずむず脚症候群 (レストレスレッグス症候群) |
50才以上の人に多い病気です。入眠時に足に虫が這うような不快感やひりひり感が出て、じっとしているとひどくなるのでカラダを動かしたくなり、なかなか眠れなくなります。原因は解明されていませんが、神経伝達物質の異常が関係していると考えらえています。 |
周期性四肢 運動障害 |
寝ている途中に、無意識に足の筋肉がぴくぴくと動く病気です。意図せぬ動きに刺激され、眠りがさまたげられて不眠になります。むずむず脚症候群と同時に発症しやすいとされています。はっきりとした原因はわかっていませんが、脳から足への神経伝達の異常がかかわっていると考えられています。 |
更年期の眠気は夜間の睡眠不足によって起こります。まずは生活習慣を見直し、十分な睡眠時間を確保しましょう。
更年期症状は、女性ホルモンの減少を主体に、一人ひとりの性格や生活習慣やストレスなどの要因が複雑に絡み合って発症・悪化すると考えられています。加齢によるカラダの変化には逆らうことができないため、規則正しい食生活、睡眠時間の確保、心地よい寝具を使用するなどして、更年期を乗り越えましょう。また、適度な運動をするのもおすすめです。更年期の女性では、ヨガなどの運動をすることで、睡眠の質を高めるという報告もあるので、無理のない範囲で取り入れましょう。
このような工夫を続けても、不眠や眠気が解消できない場合は、医療機関を受診し、医師に相談しましょう。日常生活に支障をきたす不眠に対しては、睡眠薬などを用いて睡眠リズムを整えることができます。のぼせ(ホットフラッシュ)などの更年期症状が強く、眠りをさまたげているケースでは、減少した女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法」が有効な場合もあります。
更年期の不眠に対する睡眠薬による治療やホルモン補充療法以外の方法としては、漢方薬による治療も選択できます。
更年期の女性における幅広い症状に対しては、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の3種の漢方薬が用いられます。これらのなかで更年期の不眠の症状が強い場合は、加味逍遙散と柴胡加竜骨牡蠣湯が使用されます。
表3:不眠の症状が強い場合に用いられる漢方薬
加味逍遙散 |
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柴胡加竜骨牡蠣湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう) |
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更年期はホルモンバランスの変化や女性を取り巻く環境の変化などによって、心身の様々な不調が起こりやすい時期です。特に、眠気や不眠など、睡眠にかかわる悩みは更年期の女性の多くが経験します。
睡眠をさまたげる更年期の症状はつらいですが、閉経後に女性ホルモンが少ない状態のまま安定すると、それらのほとんどが治まるといわれています。適度な運動を取り入れたり、心地よい寝具を使用したりして、睡眠のリズムを整え、更年期とうまく付き合いましょう。
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