『イライラ』して当たってしまうのは
更年期のせいかも。
原因と対処法

『イライラ』 イメージ写真

些細なことでカッとしてしまったり、イライラしたり。そのたびに後悔し、自己嫌悪に陥ってしまうようなことはありませんか。更年期は女性にとって人生のターニングポイントです。現代の女性は仕事の重圧や家庭の悩みも重なって、ココロに不調をきたすことがあります。「イライラするのは自分だけ?」と落ち込まずに、更年期の正しい知識を持って不調を乗り越えましょう。

※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。

監修者プロフィール

高尾 美穂(たかお みほ)

高尾 美穂
たかお みほ)

日本医師会認定産業医・医学博士・婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長。日本医師会公認産業医として働く女性を支える傍ら、内閣府男女共同参画局・人事局の教育講演など担当している。

著書:「娘と話すからだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)「人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉」(扶桑社)

更年期における
イライラの症状

更年期には、たいしたことのない出来事に対して不安感や焦燥感が募ったり、感情のコントロールが難しくなったりすることがあります。そのため、理由もなくイライラしたり、仕事上のトラブルや子育てなどの負荷をきっかけに怒りっぽくなってしまったりします。さらに、イライラして周囲に当たってしまったことを後悔し、落ち込んでしまうといったネガティブな感情を抱いてしまう場合もあります。

これらは更年期によって起こる症状「更年期症状」の1つです。更年期症状の程度がひどく、日常生活に支障をきたす場合は医療機関で「更年期障害」と診断されます。

更年期にイライラが
起こる原因

イライラとは、物事が思うように進められなかったり、不快な思いをしたりしたときに神経がたかぶり、苛立ってしまうことです。イライラは、性別や年齢に関わらず、それ相応の出来事に直面した場面では、誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。

しかしながら、更年期では些細な出来事に対してもイライラしやすくなってしまい、感情のコントロールが難しくなることがあります。その主な原因として、閉経に伴う女性ホルモンの低下が影響していると考えられています。

女性ホルモンは、脳の視床下部という部位からの「女性ホルモンを出して」という指令を受けて、卵巣から分泌されるホルモンで、排卵や月経リズムを維持するために欠かせないホルモンです。

しかし、加齢によって卵巣の機能が低下すると、卵巣は視床下部からの指令を受けても女性ホルモンを作れなくなります。視床下部がいくら指令を送っても、女性ホルモンが作られない状態が続くと視床下部が混乱し、次第にその機能が低下していきます。

生理が順調な頃

更年期になる前 イメージ図
  • 1脳(視床下部)から女性ホルモン分泌を指令する
  • 2卵巣から女性ホルモンが分泌される
  • 3女性ホルモンの血中濃度が高まると指令が止まる

更年期

更年期になると イメージ図
  • 1脳(視床下部)から女性ホルモン
    分泌を指令するが、卵巣から十分な
    女性ホルモンが分泌されない
  • 2脳(視床下部)から女性ホルモンを出す指令が
    出続ける
  • 3自律神経中枢に影響を及ぼす/ホルモンバランス・
    自律神経のバランスが乱れる
  • 4自律神経に異常発生!

視床下部は心身のバランスを整える「自律神経」のコントロールセンタ―でもあるため、女性ホルモンの低下による視床下部への影響は自律神経にも及ぶことになります。自律神経の乱れによって起こる自覚症状は、冷え、のぼせ(ホットフラッシュ)、体が重いなど多岐にわたり、イライラすることもあります。また、更年期の症状は、1人ひとりの体質や日々のストレス、不規則な生活習慣などの要因も相まって発症すると考えられており、症状の出方にも個人差が大きいといわれています。

更年期の女性を取り巻く環境を考えると、親の介護や自分の病気の悩み、既婚の方であれば夫との関係の悩み、子どもの反抗期、進路、恋愛、子離れなどの悩みを抱えている方が多いのではないでしょうか。また、仕事面でも社会的立場の変化や責任の重さ、同僚との人間関係の悩みを抱える方もいるでしょう。

更年期の女性は加齢に伴う心身の変化を受け入れると同時に、様々な悩みと向き合う必要があり、慢性的なストレスを抱えやすくなっています。これらの環境は女性ホルモンの低下と複雑に絡み合って、イライラなどの更年期症状の発症、悪化に関わっていると考えられています。

イライラが症状として
あらわれる病気

イライラは、更年期症状以外でも、いくつかの病気の症状としてあらわれることがあります。イライラの原因になる代表的な病気を知っておきましょう。

病気によって治療法も異なるため、更年期症状としてのイライラとそれ以外の病気によるものを混同せず、適切に対処することが大切です。更年期にイライラの症状があったとしても、「年齢によるものだから」と我慢せずに、医療機関を受診して医師に相談しましょう。

双極性障害 「躁うつ病」と呼ばれていた病気です。気分がたかぶる「躁状態」と気分が落ち込む「抑うつ状態」の両方を繰り返します。躁状態のときは、思考や気分が高揚するため、焦燥感が高まり、少しの刺激でも強い怒りの感情が沸き上がってきて抑えられなくなることもあります。双極性障害の原因はまだ解明されていません。しかし、遺伝的な要因や環境ストレスが関連していると考えられており、症状の出方も様々です。精神科の医師による診断と治療が必要です。
バセドウ病 バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気です。甲状腺ホルモンは、全身の代謝を調整している重要なホルモンですが、通常よりも過剰に産生されることで自律神経のバランスが崩れ、動悸や発汗、体重減少、指の震えなどの身体症状が出ます。精神面では焦燥感やイライラ、落ち着かないなどの症状が出ることがあります。バセドウ病の根本的な原因は解明されていません。しかし、ストレスやウイルス感染症などが引き金になり、免疫系の働きが乱れることによって発症するのではないかと考えられています。バセドウ病は医療機関での診断・治療が必要です。

更年期の
イライラの対処法

更年期の症状は、女性ホルモンの低下というカラダの変化と、日々のストレスや不規則な生活習慣などの環境要因が絡み合って発症します。コントロールできないイライラの症状はつらいものですが、閉経後、女性ホルモンが少ない状態のまま安定すると、更年期症状としてのイライラなどの精神症状はそのほとんどが治まるといわれています。まずはバランスのよい食事、規則正しい睡眠習慣、ストレスの少ない生活を取り入れ、心身の調子を整えましょう。

イライラがつらいときは、漢方薬を服用して調子を整えるのも1つの方法です。更年期症状に対しては、加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が用いられますが、イライラ症状を訴える方に対しては、加味逍遥散が有効であるとされています。

加味逍遙散は、更年期障害をはじめ、月経不順や月経困難、冷え性、虚弱体質の方に用いられます。疲れやすい、肩こり、便秘、精神不安などがある方に向いている薬です。

ただしコントロールできないイライラに振り回され、日常生活に支障をきたす場合には医療機関を受診しましょう。医療機関では減少した女性ホルモンを薬剤によって補う「ホルモン補充療法」や「漢方薬」による治療を行います。イライラや焦燥感、不安感、落ち込みなどの症状が強い場合は、向精神薬などの併用、カウンセリングなどのケアが有効な場合もあります。更年期障害の症状は、適切な治療を受けることで改善することが可能なため、医師に相談しましょう。

更年期の症状を知り
ココロとカラダと
うまく付き合いましょう

更年期には、これまでに経験したことのないようなカラダの変化やイライラなどのココロの症状を経験することがあります。しかし、その症状の出方には個人差があり、特に問題なく過ごす方もいれば、日常生活に支障をきたすほどの重い症状が出る方もいます。

「どうして自分だけイライラしてしまうんだろう」と自分を責めたり、無理にがまんしたりせず、更年期症状に対する正しい知識を持って、自分のココロとカラダの変化とうまく付き合いましょう。

これまで家事や育児、仕事が忙しく、なかなか自分と向き合う時間がもてなかったという方も多いのではないでしょうか。更年期をきっかけに自身の健康や生活習慣、周囲の環境を見直し、自分らしく過ごせるようにしましょう。

動悸や息切れ以外にも、ほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)、めまい、イライラなどの症状のある方や、更年期障害について詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてください。