更年期が近づいてくると、多くの女性が経験するのが「生理の変化」です。人によって個人差が大きく、毎月一定の間隔できていた生理(月経)が不規則になったり、経血の量に変化が起きたりといったいわゆる「月経不順」が起こります。その後、閉経に向かいます。
この記事では、更年期にさしかかる女性が経験する生理の変化、原因、対処法を解説します。更年期の月経不順やカラダの不調に関する正しい知識を知り、更年期を乗り越えましょう。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
高尾 美穂
(たかお みほ)
日本医師会認定産業医・医学博士・婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長。日本医師会公認産業医として働く女性を支える傍ら、内閣府男女共同参画局・人事局の教育講演など担当している。
著書:「娘と話すからだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)「人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉」(扶桑社)
更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間、合計で約10年間のことを指します。日本人の閉経年齢は平均50歳であり、おおよそ45~55才が更年期の対象年齢です。しかし、閉経のタイミングは個人差が大きく、更年期が早く訪れる人もいれば、遅い人もいます。
女性にとって閉経前後の10年間は、卵巣機能が衰え、女性ホルモンの分泌が乱高下しながら減少することで、様々な体調変化や不調を経験しやすい時期です。もともと大きな病気もなく、病院で調べても特に異常がないにもかかわらず、更年期にあらわれる不調を「更年期症状」といいます。
更年期の主な症状には、自律神経失調症状、精神的症状、身体的症状があります(表1)。症状の出方や程度には個人差があり、同時に複数の症状が出ることが多いです。
表1:主な更年期症状
自律神経失調症状 |
のぼせ(ホットフラッシュ)、異常発汗、めまい、寒気、冷え、動悸、胸痛、息苦しさ、 疲労感、肩こりなど |
---|---|
精神的症状 |
頭痛感、倦怠感、不眠、情緒不安定、イライラする、怒りっぽい、気分の落ち込み、 意欲の低下、不安感など |
身体的症状 | 腰・関節・筋肉の痛み、手のこわばり、むくみ、しびれ、吐き気、食欲不振、腹痛、便秘、下痢、乾燥肌、湿疹、かゆみ、排尿障害、頻尿、性交障害など |
さまざまな検査でもはっきりとした異常がないにもかかわらず、上記のような症状が重く、「仕事に行けない」「家事ができない」など、日常生活に支障をきたす場合は医療機関で「更年期障害」と診断されます。
これらの更年期の症状はつらいものですが、閉経後、女性ホルモンが少ないけれど安定すると、特に自律神経失調症状は治まるとされています。
更年期は卵巣の機能が低下し、生理が完全にストップする「閉経」を基点として、その前後の5年間にあたる期間です。したがって、閉経前の数年間にはたいてい生理のパターンに変化が起きます。
女性の生理のサイクルは、通常25~38日間です。主に下記の1~3の3つのフェーズを繰り返します。
妊娠が成立した場合は、妊娠を維持するためにプロゲステロンが増加しますが、黄体期に妊娠しなかった場合は、プロゲステロンの量が減少し、子宮内膜がはがれおちて、経血として性器から排出されます。これが生理です。通常、1回の生理は3~7日間、経血の量は20~140mlです。
しかし、加齢とともに卵胞が減少したり、卵巣の機能が低下したりすることで、生理のサイクルが乱れて生理が不規則になります。更年期にみられる生理の乱れには個人差がありますが、主に以下のような異常がみられます(表2)。
表2:生理の異常
周期の異常 | 不整周期(不順) | 生理のサイクルが定まらず、最短周期と最長周期の差が8~10日以上ある |
---|---|---|
頻発月経 | 生理のサイクルが24日以内 | |
希発月経 | 生理のサイクルが39日以上 | |
続発性無月経 | 生理のない状態が3か月以上続いている | |
生理期間の異常 | 過長月経 | 出血日数が長く、8日以上 |
過短月経 | 出血日数が短く、2日以内 | |
経血量の異常 | 月経過多 | 月経量が多く、140ml以上 |
過少月経 | 出血日数が短く、2日以内 | |
不正出血 | 不定期に性器から出血する。生理のサイクルの乱れ以外にも、感染症や子宮の異常によって起こることもある |
更年期にさしかかると、上記のような生理の異常があらわれはじめてから、生理が不順になり、やがて生理がこなくなります。
1年を通して生理が起こらない時点で「閉経」と判断します。子宮や卵巣、全身の病気などの影響で、月経不順が起こる可能性もあります。しかし、そういったケースを除き、生理のサイクルや長さ、経血の量に変化があり、「次にいつ生理が来るのかわからない」状態になったら、更年期が始まったと考えてよいでしょう。
更年期に月経不順になる主な原因は、加齢による卵巣機能の低下と女性ホルモンの減少です。年齢を重ねると、卵巣の機能が低下し、排卵や生理などの女性の月経周期を維持するために必要な女性ホルモンが作られなくなります。
正常な生理のサイクルは、卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンの2つの女性ホルモンの働きによって成り立っています。更年期には、これらの女性ホルモンの分泌が乱高下しながら減少しはじめ、やがてほとんど分泌されなくなることで閉経へと向かいます。
更年期における月経不順の主な原因である女性ホルモンの減少は、ほてり(ホットフラッシュ)、めまい、疲労感などの更年期症状のきっかけにもなります。さらに、1人ひとりの性格や生活習慣、生活環境、ストレスなどの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
生理に関するトラブルは、更年期によるものとは限りません。子宮や卵巣など婦人科の病気よって、症状があらわれる場合もあります。
下記の病気は、婦人科医による診断と治療が必要です。「どうせ更年期や年齢によるものだろう」と自己判断をして放置するのはやめましょう。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
表3:婦人科の病気
多嚢胞性 卵巣症候群 |
卵巣が腫れて大きくなり、ホルモンバランスが乱れることで排卵機能や月経に異常がおきる病気です。女性の約5~10%にみられるといわれています。 |
---|---|
子宮筋腫 | 子宮の筋肉に腫瘍ができる病気です。月経過多、過長月経、月経痛、貧血などの症状が出ます。 |
子宮内膜症 | 何らかの原因によって、子宮内膜の組織が子宮の外側にできてしまう病気です。月経痛や腰痛、排便時・性交時の痛みなどの症状があらわれます。 |
子宮頸がん | 子宮頸部にできるがんです。ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで起こります。初期症状としては性交時に出血するなどの症状がみられ、病気が進行すると腰痛や血尿、血便が出ることがあります。 |
子宮体がん | 子宮体部にできるがんです。病変部から出血することにより、茶褐色のおりものや不正性器出血などの症状が出ます。一度閉経したにも関わらず、性器からの出血がある場合は注意が必要です。 |
更年期の月経不順は、やがて閉経に至るまでの一時的なものです。月経不順に気付いたら更年期の時期にさしかかっていることを理解し、無理をしない生活を心がけましょう。
閉経へと向かう更年期は、生理痛などの不快な症状やそのほかの更年期症状を伴うこともあります。症状がつらい場合は、医療機関で女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法」などの治療を受けることもできます。日常生活に支障が出ているときは無理をせず、婦人科を受診して医師に相談しましょう。
そのほかの治療法としては、漢方薬もあります。漢方薬は「気・血・水」というカラダを構成する3つの要素のバランスを整えることで症状にアプローチします。
「気」とは、カラダと精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは、カラダをめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは血液以外のカラダに必要な水分であり、カラダに栄養を与え、不要なものを排出する水分のことです。漢方医学では、生理に関するトラブルの多くは「血」の不調が関係していると考えます。
更年期の女性における幅広い症状に対しては、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の3種の漢方薬がよく使用されています。
漢方治療では、患者のカラダの状態や体質、病気の進行度などその人の体質や症状に合う薬を選択します。特に、月経不順など、血の不調による症状が強い場合は、温経湯(うんけいとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの漢方薬を用いることもあります。
表4:月経不順を改善する漢方薬
温経湯 |
|
---|---|
当帰芍薬散 |
|
桂枝茯苓丸 |
|
これまで順調に来ていた生理が不順になると、「病気かな?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。更年期の月経不順は閉経へと向かう道筋での自然な現象といえます。女性のカラダがこれからの人生を元気に過ごしていくために必要な段階であることを知り、更年期と上手に付き合いましょう。
また、月経不順のほかにも、のぼせ(ホットフラッシュ)、頭痛、イライラといった更年期症状がつらいときは決して無理をせず、医師に相談しましょう。適切に対処をすることで、更年期を快適に過ごせます。
更年期の概要やよくある症状、原因について詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてください。