更年期の女性は、ホルモンバランスの乱れを背景に心身の様々な不調を経験することがあります。吐き気や胃のむかつき・もたれといった消化器の症状も、更年期にあらわれやすいトラブルの1つです。突然の胃のむかつきに悩んでいるという方もいるかもしれません。
今回は、更年期に吐き気や胃のむかつきなどが起こりやすい原因、対処法を解説します。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
更年期(閉経前の5年間と閉経後の5年間、合計で約10年間)はとくに胃や腸に異常がないにも関わらず、吐き気や胃のむかつき・もたれなどの不調を経験することがあります。
さらにめまいや頭痛などの症状を伴ったり、胃の不快感によって食欲不振になったりする方もいます。
更年期によって起こる「更年期症状」は、大きく分けて自律神経失調症状(ホットフラッシュや肩こり、めまいなど)、精神的症状(情緒不安定、イライラなど)、身体的症状(関節痛、筋肉痛、消化器症状、皮膚粘膜の乾燥など)の3つに分けられます。胃の不調は、更年期に伴う身体的症状の1つです。
更年期症状の程度がひどく、「体重が減ってきた」「外出ができない」「仕事に行けない」など、日常生活に支障をきたす場合は医療機関で「更年期障害」と診断されます。
更年期の心身の不調は、卵巣の老化に伴う女性ホルモンの減少によって引き起こされます。更年期における吐き気や胃のむかつき、めまい、カラダのだるさなどの症状は、女性ホルモンのバランスが崩れて自律神経が乱れることで生じると考えられています。
自律神経は胃や腸などの消化器官の働き、心臓の働き、発汗、体温調節など、私たちが自分の意思でコントロールできない基本的な生体活動を維持する役割を担っています。とくに胃腸の働きにおいて、胃壁の収縮、胃と腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:食べ物や便を押し進める筋肉の運動)と密接に関わっているため、自律神経のバランスが崩れると、胃の不調を感じることがよくあります。
また、精神的なストレスも原因の1つになることがあります。緊張やストレスによって吐き気や胃のむかつき・もたれなどが生じるのは、精神的な要因で自律神経が乱れるためです。
女性にとっての大きな転換期である更年期は、女性ホルモンの減少に加え、女性を取り巻く環境の変化、家族・職場での人間関係の変化、加齢に伴う不安などの心理的な要因が重なり、胃の症状が起こりやすくなります。
更年期以外でも、吐き気や胃のむかつき・もたれが起こる原因は多くあります。たとえば、胃腸炎、逆流性食道炎、慢性胃炎、胃がんなどの消化器の病気、メニエール病(聴覚やバランス感覚をコントロールしている内耳という組織がむくむ)などの耳の病気が原因となって、胃の症状も生じることがよくあります。
そのほか、うつ病などの精神的な病気によっても、胃の症状が起きることがあります。
吐き気や胃のむかつき・もたれなど、それぞれの原因によって対処法や治療法は異なるため、これらのような症状が続いているときは、「更年期のせいだろう」と自己判断せず、病院を受診して原因を見極めることが大切です。
まれに、大きな病気が隠れていることもあるため、気になる症状がある場合は医師に相談しましょう。
医療機関で検査をしても、カラダに大きな異常がないにも関わらず、吐き気や胃のむかつき・もたれなどの症状がある場合には更年期に伴う症状の可能性があります。
更年期には、女性のカラダがホルモンの変化に適応するための大切な過渡期です。心身ともにこれまでに経験しなかったような症状が起こる時期であることを理解し、自分のココロとカラダをいたわりましょう。
まずは、食事と睡眠のリズムを整え、規則正しい生活を送りましょう。周囲にストレスの原因になるできごとや環境があるときは、一旦距離をとって、ココロを休めることも大切です。
ただし、吐き気や胃のむかつき・もたれがひどくて食欲がないときは、お米やお粥、うどんなど、消化吸収のよい食材を中心に食べましょう。とくに調子が悪いときは、食事の量を小盛りにすることで胃腸への負担を減らせます。その場合は間食を取り入れ、一日に必要な栄養を補うとよいでしょう。
生活リズムや食事内容を見直しても、症状が改善しない場合は漢方薬を取り入れるのも1つの方法で、更年期に見られる女性特有の心身の不調を整え、様々な更年期症状を改善する効果が期待できます。
漢方薬による治療には、体質そのものを改善を目指す「本治」というアプローチと、症状そのものをやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。
更年期の症状の根本的な原因にはホルモンバランスの乱れといった体質の変化が関わっています。更年期障害に対する本治のアプローチとして広く用いられる漢方薬は次の3種です。
一方、胃のむかつきなどの不快な症状に対しては、症状をやわらげる「標治」のアプローチとして用いられる代表的な漢方薬はこちらです。
漢方薬は、患者の状態や体質に合ったものを使用することで効果を発揮します。漢方薬剤師などの専門家に症状を詳しく伝え、自分に合った漢方薬を使用しましょう。
ただし、セルフケアを行っても胃の症状が続いている、日常生活に支障をきたすほど症状がつらい場合は、婦人科や更年期外来、消化器内科などの専門の医師に相談しましょう。医師から更年期障害と診断された場合は、医療機関で薬物療法を受ける選択肢もあります。
更年期の女性は、ホルモンバランスの変化や自律神経の乱れによって、吐き気や胃のむかつき・もたれの症状を経験することがあります。胃の不快感などの症状が更年期によるものであれば、閉経後に女性ホルモンが少ない状態にカラダが慣れていくのに従って、不快な症状は自然と軽快する場合もあります。
ただし、胃の症状は更年期以外にも様々な原因によって起こる可能性があります。症状が続いているときには、医療機関を受診して医師に相談しましょう。