最近、朝起きたときに、何となく関節が動かしにくく、しばらく動かしているうちに徐々に楽になるという経験はないでしょうか。更年期になると、手指の動きに違和感を覚えたり、動かしにくくなったりする「手指のこわばり」の症状に悩まされる方も多くいます。
今回は、手指のこわばりの原因や更年期との関連、適切な対処法を解説します。
※弊社から高尾先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
手指のこわばりとは、朝起きたときに手指の関節が動かしにくく、動かしているうちに徐々に楽になる状態を指します。このような関節の動かし始めがスムーズにいかない状態を「こわばり」といいます。ひどくなると、手を握りにくくなったり、指の関節部分を押したり動かしたりするときに痛みを感じたり、指が腫れて指輪が入りにくくなったりすることもあります。
卵巣の機能が低下し始める更年期になると、女性ホルモンの分泌が不安定になり、徐々に減少していきます。この閉経前後の時期には、女性ホルモンが減少することが引き金になって起こる様々な不調「更年期症状」があらわれます。
更年期症状の代表的なものとして、ホットフラッシュやのぼせ、発汗などが知られています。手指のこわばりもまた、更年期症状の1つとしてあらわれることがあります。
これまでの研究によると、更年期障害に悩む約半数の方が手指のこわばりや、手先・足先などの関節の痛みを訴えているとされており、決して珍しい症状ではありません。
更年期に手指のこわばりが起きる原因は、完全には明らかになっていません。しかし、閉経に伴う女性ホルモンの低下と何らかの関係があると考えられています。
具体的には、女性ホルモンが低下することで、関節をスムーズにする軟骨や筋肉が衰えたり、関節内の水分が減ったりして、手指のこわばりや痛みなどの症状が起こりやすくなります。そのほか、女性ホルモンには関節を保護する働きもあるため、閉経後に女性ホルモンが減少することで、関節がダメージを受けやすくなっていることも考えられます。
手指のこわばりが起きる原因は様々です。たとえば、以下のような関節や筋肉、神経などの病気によって、手指のこわばりなどの症状が出ることがあります。
表:手指のこわばりが起こる病気
ばね指 | 指を動かす筋肉と靭帯の通り道である「腱鞘」が手の使い過ぎで、擦れて炎症を起こす病気です。炎症のために手指がこわばり、曲げ伸ばしの際に指の付け根にガクッとした引っ掛かりが生じます。中指や親指によく見られ、進行すると指を曲げることができなくなります |
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関節リウマチ | 免疫系の異常によって、関節に炎症が起き、手指のこわばりや曲げづらさ、痛み、腫れなどの症状が出ます。症状は、左右対称に出るのが特徴で、肩や股関節などにも広がることがあります |
ヘバーデン結節 | 結節とは骨のコブのことで、第一関節がコブのように変形して腫れ、指の痛みやしびれが出ます |
ブシャール結節 | 第二関節がコブのように変形して腫れ、指の痛みやしびれが出ます |
手根管症候群 (しゅこんかんしょうこうぐん) |
指につながる神経や腱が手根管というトンネル状の組織に圧迫されることで、手のひらや親指、人差し指、中指、薬指にしびれが起きます |
母指CM関節症 | 親指の付け根の関節が腫れ、親指を動かそうとするとしびれや痛みが出ます |
ドケルバン病 | 手首から親指につながる腱が腫れたり、腱の通り道である「腱鞘」が分厚くなったりして、腱がスムーズに動かなくなり、手首に痛みや腫れが出ます |
これらの病気は、更年期の女性に比較的よく見られます。しかし、医師の診断と適切な治療が必要な病気です。心配な場合は、早めに医療機関を受診し、医師の診察を受けましょう。
医療機関で検査を受けてもとくに異常が見つからない場合でも、手指のこわばりがあれば、日常生活の中で対策を行いましょう。
十分な睡眠と規則正しい食事を意識して、体を冷やさないようにすることが大切です。食事は筋肉や腱の維持に必要なタンパク質、ビタミン、ミネラル類が不足しないよう注意しましょう。
毎日の入浴では、夏場でも湯船につかって体を温めましょう。38~39℃のぬるめのお湯でゆったりと半身浴をするのがおすすめです。アロマオイルを使って手指をマッサージしたり、お風呂上がりや寝る前などに心地のよいストレッチ運動を取り入れたりすることで血行がよくなり、手指のこわばりをやわらげる効果が期待できます。
市販の漢方薬を利用するのも選択肢の1つです。漢方薬には、更年期障害などの女性特有の心身の不調に効果を発揮するものがいくつかあります。
漢方医学では、更年期の症状は「気・血・水」のバランスの乱れによるものと考えられています。「気」とは体と精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは不要なものを排出する体内の水分のことを指します。漢方薬はこの「気・血・水」のバランスを整えることで、症状にアプローチします。
漢方薬による治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」というアプローチと、症状そのものをやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。
更年期の症状の根本的な原因としては、ホルモンバランスの乱れという体質の変化が関わっていることから、更年期障害に対する本治のアプローチとしては次の3種が広く用いられています。
表1:更年期症状に対する本治のアプローチとして用いられる漢方薬
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) |
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一方、手足のこわばりの症状に対しては、漢方では関節痛と捉え、その症状をやわらげる「標治」のアプローチとして、次のような漢方薬が使われることもあります。
表2:関節痛に対する標治のアプローチとして用いられる漢方薬
桂枝加苓朮附湯 (けいしかりょうじゅつぶとう) |
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桂枝加朮附湯 (けいしかじゅつぶとう) |
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疎経活血湯 (そけいかっけつとう) |
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また、むくみによって関節のこわばりが起きていると考えられる場合には、五苓散が有効な場合もあります。ただし、これらのセルフケアを行っても、症状が改善しない、悪化している、または手指のしびれや痛み、腫れなどの症状を伴うといった場合には、無理をせずに医師に相談してください。
手指のこわばりの原因を特定するため、詳細な画像検査などが必要になる場合がありますので、まずは整形外科を受診しましょう。ただし、ホットフラッシュやのぼせ、発汗などの更年期症状のある方は、かかりつけの婦人科などの医療機関の医師に相談するのもよいでしょう。
更年期の症状による手指のこわばりではない場合、ばね指症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、パーキンソン病などの病気によって症状が出ている可能性があります。手指のこわばりが治らない場合は、まずは整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
更年期は女性にとって人生の大きなターニングポイントであり、これまでにない変化を経験する時期です。手指のこわばりもその1つであり、多くの場合、女性ホルモンの変化が影響していると考えられています。
日常生活に影響がない場合は、自分の体の変化を受け入れ、更年期を前向きに乗り越えましょう。ただし、症状が重くて日常生活に支障をきたす場合、痛みやしびれなどの症状を伴う場合は、早めに整形外科などの医療機関を受診してください。早期に適切な治療を受けて症状を改善することで、より快適に更年期を過ごすことができます。