頻尿などの『排尿障害』は
更年期だから?
原因と対策

『乾燥感』イメージ写真

頻尿や尿漏れなどの尿トラブルは、更年期の女性によく見られる症状です。尿に関する悩みがあると、外出しにくくなったり、旅行を楽しめなくなったりするなど、生活の質にも大きく影響します。一方で、このような悩みは人には相談しづらく、1人で悩みを抱えているという方も多いのではないでしょうか。

更年期の排尿障害は、加齢に伴う女性の体の変化が関係しています。しかし、日常生活を見直し、適切にケアすることで改善が期待できます。

今回は、更年期に起こる排尿トラブルの原因をはじめ、日常生活でのセルフケア方法、漢方薬による対策を解説します。

※弊社から石原先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。

更年期における排尿障害の症状

更年期の不快な症状といえば、ホットフラッシュやのぼせなどの症状がよく知られています。しかし、尿に関するトラブル「排尿障害」もまた、更年期の症状の1つとしてあらわれることがあります。

排尿障害とは、尿を膀胱にため、体の外へ排泄するサイクルに、なんらかの異常が生じた状態のことをいいます。この障害は、尿をうまくためられない「蓄尿障害」と、尿をうまく出しきれない「排出障害」の大きく2つに分類されます。更年期の女性が抱える尿トラブルの多くは、蓄尿障害に関連しています。

蓄尿障害の代表的な症状の1つが、「尿が近い」「尿の回数が多い」などのいわゆる「頻尿」です。一般的に、朝起きてから寝るまでの日中の排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます。しかし、回数が8回以下であっても、自身で「回数が多い」と感じれば頻尿といえます。夜間に排尿のために1回以上は起きてしまう場合は、「夜間頻尿」と呼びます。

また、急に強い尿意を感じてがまんするのが難しくなる「尿意切迫感」や、意図せず尿が漏れる「尿失禁」も蓄尿障害に見られる主な症状です。尿失禁には、咳やくしゃみなどおなかに力が入った際に尿が漏れる「腹圧性尿失禁」と、急な尿意でトイレまで間に合わずに漏れてしまう「切迫性尿失禁」などがあります。

更年期に排尿障害になる原因

更年期前後の女性に排尿トラブルが起こりやすくなる背景には、女性特有の体の構造とホルモンバランスの変化が関係しています。

女性の体は、男性と比べると尿道が短くまっすぐなのが特徴です。さらに、膀胱や尿道、子宮などの骨盤内の臓器を下から支えている「骨盤底筋群」という筋肉が、男性よりも弱い傾向があります。この構造的な特徴に加え、更年期にはホルモンバランスの変化の影響が加わり、尿トラブルが起こりやすくなります。

そもそも女性ホルモンには、骨盤底筋群をはじめ、尿の通り道である尿道や膀胱の粘膜を健康に保ち、尿が漏れないように締める力を助ける働きがあります。しかし、閉経によって女性ホルモンが減少すると、この骨盤底筋群がさらに緩みやすくなったり、尿道や膀胱の粘膜が変化したりすることで、尿道を閉じるための力が低下します。

その結果、頻尿になったり、おなかに力が入った際に意図せず尿が漏れたりする原因の1つとなります。

排尿障害が起こる病気

頻尿や尿漏れなどの尿トラブルは更年期の影響によってだけでなく、泌尿器科領域の病気などによって起こる場合もあります。

排尿障害の原因になる主な病気を解説します。

表:排尿障害が起こる病気

過活動膀胱 過活動膀胱はなんらかの原因によって膀胱が過敏になる病気です。尿が十分にたまっていないのに、意に反して収縮してしまい、突然抑えられない尿意を感じます。そのため、トイレが近くなり、ときには間に合わず漏らしてしまう場合もあります。1回の尿量が少ないのが特徴で、加齢の影響で起こることもあるが、多くは原因不明です。
膀胱炎(急性膀胱炎) 膀胱炎は細菌感染によって膀胱に炎症が起こる病気です。とくに女性に多く見られ、頻尿、血尿、排尿の終わりに痛みが出るのが特徴。発熱や腰の痛みなどの症状を伴う場合は、医療機関の受診が必要です。
心因性頻尿 膀胱や尿道など、泌尿器系にはとくに異常がないにも関わらず、心理的な要因によって、頻尿や尿意切迫感が起こる病気です。睡眠中と、何かに集中しているとき(日中)は、頻尿が気にならないのが特徴です。

排尿障害は、これらの病気以外にも、糖尿病などの内科系の病気の可能性もあります。また、水分を取りすぎていたり、利尿剤を摂取していたりすることが原因で尿量そのものが増え、頻尿や尿漏れなどの症状が生じることもあります。

尿トラブルが続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。

更年期の排尿障害の対処法

排尿障害を改善するためには、日常生活でのセルフケアが大切です。まず、膀胱を刺激しやすいカフェインやアルコールの過剰摂取は控えるようにしましょう。ただし、頻尿や尿漏れを心配して水分摂取を控えたり、外出を避けたりしていると、心理的なストレスにもつながり、かえって症状が悪化することがあります。尿トラブルは人には話しにくい悩みですが、早めに医師などの専門家に相談するようにしましょう。

自分でできるセルフケアとしては、「膀胱訓練」「骨盤底筋体操」が効果的です。

膀胱訓練

膀胱訓練は、まずはトイレに行く時間を計画的に決めます。多少尿意があっても、トイレに行く間隔を少しずつ延ばしていくことで、膀胱に尿をためる習慣をつける訓練法です。

日々の排尿回数や尿量、飲水量などを自分で記録する「排尿日誌」をつけると、自分の排尿習慣を客観的に見ることができるのでおすすめです。排尿日誌をつけておけば、医療機関を受診した際、スムーズな診断につながります。

骨盤底筋群体操

骨盤底筋群体操は、仰向けで膝を立て、肛門や膣を意識的に数秒間締めてから緩める動作を繰り返すことで、おなかを下から支える骨盤底筋群を鍛えるトレーニングです。

・骨盤底筋群体操の方法

  1. 1.仰向けに寝て、足を肩幅に開いて両膝を軽く曲げ、体をリラックスさせます。
  2. 2.肛門と膣をぎゅっと上に引っ張るように6~8秒間締めた後、10秒間緩める動作を10回繰り返します。
  3. 3.次に、テンポよく2~3秒の収縮と弛緩を繰り返す動作を5回×2セット繰り返します。

市販の漢方薬

更年期の排尿障害に対しては、市販の漢方薬なども効果が見られる場合があります。漢方薬のなかには、更年期障害をはじめ、女性特有の心身の不調に効果が期待できるものがあります。

漢方医学では、更年期障害は「気・血・水」のバランスの乱れによるものと捉えます。「気」とは体と精神の活動に必要なエネルギー、「血」とは体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液、「水」とは不要なものを排出する体内の水分のことを指します。漢方薬はこの「気・血・水」のバランスを整えることで、症状にアプローチします。

表:更年期の排尿障害に用いられる漢方薬

猪苓湯
(ちょれいとう)
  • 排尿困難や排尿痛、残尿感、頻尿、むくみに用いられる
  • 排尿異常があり、ときに口が渇く方に向いている
五淋散
(ごりんさん)
  • 頻尿や排尿痛、残尿感、尿のにごりに用いられる
  • 体力が中等度の方に向いている
八味地黄丸
(はちみじおうがん)
  • 排尿困難や残尿感、夜間尿、頻尿、軽い尿漏れ、下肢痛、腰痛、しびれ、かゆみ、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)などに用いられる
  • 体力が中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少または多尿で、ときに口渇がある方に向いている
竜胆瀉肝湯
(りゅうたんしゃかんとう)
  • 排尿痛や残尿感、尿のにごり、こしけ(おりもの)、頻尿に用いられる
  • 体力が中等度以上で、下腹部に熱感や痛みがある方に向いている

漢方薬を効果的に使うためには、1人ひとりの体質や状態に合わせて選ぶことが大切です。漢方薬剤師などの専門家に相談して、自分に合った漢方薬を選びましょう。ただし、こうしたセルフケアを行っても症状が改善しない場合、悪化している場合は、医療機関を受診してください。

よくあるご質問(FAQ)

Q.更年期になると排尿障害が起こるのはなぜ?
A.

更年期に女性ホルモンの分泌が減ることで、膀胱などを支える骨盤底筋群の力が低下し、尿をためておく力が弱まることで、頻尿や尿漏れが生じやすくなります。

Q.更年期の頻尿の対処法は?
A.

膀胱訓練で排尿間隔を伸ばすことや、骨盤底筋を強化する訓練が有効です。また、カフェインやアルコールなどの多量摂取は控えましょう。症状が強く、日常生活に支障が出ているときは医療機関を受診しましょう。

更年期の症状を知り
ココロとカラダと
うまく付き合いましょう

更年期には、頻尿や意図しない尿漏れといった排尿トラブルが起こりやすくなります。主な原因は、女性ホルモンの減少によって膀胱などを支える骨盤底筋群の筋力が低下し、排尿をコントロールする力が弱まるためです

日頃から、骨盤底筋群を鍛える運動や排尿間隔を意識的に延ばす訓練が有効です。食生活では、カフェインやアルコールなどの刺激物を避けましょう。こうした不調をきっかけに、日々の生活を見直すことが大切です。また、市販の漢方薬も体質に合わせて使用することで効果が期待できます。

ただし、排尿トラブルの背景には、別の病気が関わっている可能性もあります。セルフケアを行っても症状が改善しない場合、悪化している場合は、医師に相談しましょう。