―ホルモンバランスを整える方法
女性の体は、年齢とともに変化していきます。その鍵を握るのが「エストロゲン(卵胞ホルモン)」に代表される女性ホルモンです。特に40代半ば〜50代半ばの更年期に心身にさまざまな不調が出てくるのは、エストロゲンの減少が深く関係しています。女性ホルモンの働きや、ホルモンバランスを整える生活習慣についてご紹介します。
私たちの体内では、さまざまな臓器や組織で「ホルモン」と呼ばれる物質がつくられ、このホルモンを介して体中に生命活動のための指令が送られています。中でも女性ホルモンと男性ホルモンは性ホルモンと呼ばれ、生殖器の発達や機能の維持に深く関わっています。
女性ホルモンの代表的なものとしては、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つがあります。
エストロゲンの働き
エストロゲンは、子宮内膜を増殖させて妊娠の準備を整える女性ホルモンです。女性らしい丸みのある体づくりに加え、肌のハリや骨の健康、自律神経の安定、血管や代謝サポートにも重要な役割を果たします。閉経後に分泌が減少すると、更年期症状や骨粗しょう症などのリスク増加につながります。
プロゲステロンの働き
プロゲステロンは、受精卵がうまく着床して妊娠が成立しやすい状態に整えるホルモンです。また、体温を上げたり水分を蓄えたりするため、眠気やむくみ、食欲増加を招くこともあります。気分の安定にも影響し、生理前のPMSや体調変化と深く関係しています。
女性ホルモンは脳で
コントロールされている
女性ホルモンの分泌には、脳が深く関わっています。女性ホルモンを分泌するのは卵巣ですが、その指令を出しているのは脳の視床下部と下垂体です。
脳の視床下部が性腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌して、下垂体を刺激。
刺激を受けた下垂体は、2種類の性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン(FSH)/黄体化ホルモン(LH))を分泌して卵巣に司令を出す。
司令を受けた卵巣から、女性ホルモン(エストロゲン/プロゲステロン)が分泌される。
脳は血液中の女性ホルモンの量を感知して、多い時には分泌量を減らし、少ない時には増やす指令を出します。ストレスや不調が起こると女性ホルモンを抑制する司令が届き、月経不順などが起こります。さらに、閉経を迎えると、脳はホルモンを出す指令を出しているのに卵巣からエストロゲンとプロゲステロンが分泌されず、そのギャップから体が混乱をきたし、さまざまな不調が現れます。これがいわゆる更年期症状です。
女性ホルモンの分泌量には個人差があり、また、同じ人でも分泌量は変動します。変動する理由はいくつかありますが、特に、女性の月経周期による短期的な変動と、生涯にわたる長期的な変動が見られます。
短期的な変動月経周期で変わる
女性ホルモンのバランス。
PMSやむくみの原因にも
女性ホルモンは、生理が終わってから、次の生理が始まるまでの月経周期をコントロールします。
生理が終わると、エストロゲンの分泌量が増えて排卵が起こります。排卵後にはプロゲステロンが増えて子宮内膜が厚くなり、妊娠ができる準備を整えます。この間に受精卵が着床しなかった場合は、プロゲステロンが減少して子宮内膜がはがれ落ち、生理が始まります。
黄体期はホルモンバランスの変動が原因で、心身の不調を感じやすい時期です。むくみや肩こり、便秘、イライラ、集中力低下などを感じやすくなるなど、症状は多岐にわたります。月経前症候群(PMS)も黄体期に訪れると考えられています。
長期的な変動更年期のエストロゲンの
急速な減少が
体にもたらす影響
女性のエストロゲンの分泌量は、生涯を通じても大きく変化します。
思春期になりエストロゲンの分泌量が増え始めると初潮を迎えます。月経周期による変動はありますが、20〜30代の性成熟期はエストロゲンの量も多く、心身ともに調子が整いやすい時期です。
ところが40代後半頃から更年期に入るとエストロゲンが急激に減少し、のぼせ、ほてり、疲労感、不眠などさまざまな不調が現れます。また、筋肉量の低下や脂質代謝機能の低下によって、体重増加に悩む人も増えてきます。閉経を迎えるとエストロゲンはほとんど分泌されなくなり、それまで体を守ってくれていたエストロゲンの作用が無くなることで、骨粗しょう症や動脈硬化、心筋梗塞などの疾患リスクも高まります。
閉経によって分泌が減ってしまった、体内のエストロゲンを増やすことはできるのでしょうか。残念ながら、エストロゲンの分泌を回復させることは基本的にできません。ただし、外部から女性ホルモンを「補う」ことや、ホルモンバランスを「整える」ことはできます。
エストロゲンを「補う」には
外部からエストロゲンを補うには、食品として摂取する方法と薬を使う方法があります。
大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは、体内で腸内細菌によってエクオールという女性に有用な物質に変換されることが知られています。ただしエクオールを作れる腸内細菌を持っているのは、日本人女性の約半数といわれています。
仮にエクオールを作れない体質の方であっても、たんぱく質が豊富な大豆製品は、筋肉量の低下を防ぐなど、更年期の女性へおすすすめしたい食材です。
ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲンを薬によって補う治療法です。更年期症状が強く日常生活に支障がある人が対象となり、医師の診察とガイドラインに基づいて処方されます。従来からある飲み薬に加え、最近では、血栓症の副作用リスクの低い貼り薬や塗り薬(皮膚から薬剤を吸収)なども増えています。検討する場合は、婦人科の医師に相談すると良いでしょう。
ホルモンバランスを
「整える」には
エストロゲンの減少やホルモンバランスの崩れによる不調は、日々の生活習慣も影響しています。ホルモンバランスを乱す原因を減らし、整えるためのセルフケアを心がけましょう。
ホルモンも食事から摂取する栄養素がもとになって作られるため、偏った食事はホルモンバランスが乱れる原因です。ダイエットなどを気にする女性は、食事が野菜中心になってたんぱく質が不足しがちになるため、肉や魚も意識してとるようにしましょう。
ウォーキングなどの有酸素運動や軽い筋トレ、ストレッチといった運動習慣を持つことは、精神的なリフレッシュにつながり、自律神経を整え、ホルモンの分泌リズムを保つのに役立ちます。筋肉量が増えることで基礎代謝も上がり、更年期に悩む体重増加の予防や冷えの改善にもつながるだけでなく、有酸素運動は更年期から増加する骨粗しょう症の予防にも効果的です。
過度なストレスは女性ホルモンの働きを弱めてしまいます。また、更年期世代は仕事や家族のことなどで忙しく、つい自分のことを後回しにしてしまう方も多いようです。アロマセラピーや映画鑑賞、友人と会うなど、自分の好きなことでリラックスできる時間をとりましょう。
更年期や月経トラブルといった女性特有の不調には漢方薬を頼るのもひとつの方法です。漢方薬には様々な種類があり、その人の悩みに合わせた漢方薬で心身のバランスを整えていきます。HRTとの併用は可能ですが、併用する場合は医師や薬剤師へ相談してください。
女性ホルモンの働きやバランスを
整える方法を知って、
更年期とも上手にお付き合いを
女性ホルモンの変化は、女性なら誰にでも起こる自然なことです。ホルモン量が多い若い年代でも、バランスが乱れるとむくみやすくなったり、更年期以降に女性ホルモンが減ってくると、脂質代謝が低下してお腹周りの脂肪と体重の増加が起こりやすくなったりしますが、原因を知っておけば未然に対処しやすくなります。年代に応じた方法で上手に体の変化と付き合いながら、いきいきとした毎日を過ごしていきましょう。
関口 真紀先生
産婦人科専門医/医学博士。「婦人科お悩みトリセツ」主宰。フリーランスの産婦人科医として、健診クリニックで年間6,000人を診察すると同時に、SNSやメルマガ、セミナーなどで生理や更年期をはじめとした女性の不調に関する悩みを聞き、セルフケアや治療法を発信している。
※弊社から関口先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。