更年期は、体重の変動が起こりやすい時期です。体重が増加して太る方もいれば、逆に体重が減って痩せてしまう方もいます。この違いはどこにあるのでしょうか。更年期の女性の体重が変動する原因と、正しい体重管理の方法について、産婦人科の関口真紀先生にお聞きしました。
産婦人科専門医/医学博士。「婦人科お悩みトリセツ」主宰。フリーランスの産婦人科医として、健診クリニックで年間6,000人を診察すると同時に、SNSやメルマガ、セミナーなどで生理や更年期をはじめとした女性の不調に関する悩みを聞き、セルフケアや治療法を発信している。
※弊社から関口先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
更年期について教えてください
女性の体は年齢を重ねるとともに変化していきます。40歳を過ぎた頃から卵巣の機能が次第に低下し始め、月経周期が不規則になり、やがて閉経を迎えます。この閉経をはさんだ前後約10年間(日本人女性では平均45〜55歳頃)を更年期といいます。
どうして更年期には体重の変化が起こりやすいのでしょうか?
更年期には女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量が急激に減少し、体や心にさまざまな影響が出やすくなります。また、年代的に仕事や家庭環境にも大きな変化が起こりやすく、その負担が加わって、心身への症状となって現れることもあります。これらが更年期障害と呼ばれるものです。更年期障害は症状の程度に個人差があるものの、多くの女性が何らかの変化を経験するといわれています。
体重の変動も更年期障害のひとつです。理由は後ほど詳しく説明しますが、おもに基礎代謝の低下や内臓脂肪の増加、自律神経の乱れによる食欲の変化などが関係していると考えられます。
同じ更年期なのに、太る人と痩せる人がいるのはなぜでしょうか?
更年期には太る人が多い傾向にありますが、なかにはダイエットをしているわけでもないのに痩せてしまう人もいます。それは、更年期に起きやすい事象が100種類くらいあると言われるほど多岐にわたり、現れる症状やその度合いに個人差があるためです。例えば、イライラを発散しようとつい食べ過ぎて太ってしまう方もいれば、消化機能が落ちてあまり食べられなくなり、痩せてしまう方もいます。また、もともとの体質や食事・運動も含めた生活スタイル、生活習慣も関係しています。
更年期に太るのはどんな人ですか?
更年期は体重が増加しやすい傾向にあり、中年以降の女性は1年あたり0.5kg体重が増加するとも言われています。エストロゲンの減少によって基礎代謝が低下すること、中性脂肪が増えやすくなること、自律神経の乱れによる過食などが関係しています。
更年期に太る原因
エストロゲンには筋肉量の減少を防ぎ、筋力を維持する働きがあります。エストロゲンの減少で筋肉が減ると基礎代謝が低下するため、今までと同じ生活をしているだけなのにカロリーの消費量が減り、体重が増加しやすくなります。また、更年期障害の症状である疲労感や抑うつ気分が強くなって、「動きたくない」「何もしたくない」と運動量が低下するケースもあります。
出典:厚生労働省 健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~ 栄養と食生活, 加齢とエネルギー代謝
エストロゲンにはLDLコレステロールや中性脂肪の増え過ぎを防ぐ働きがあります。もともと女性は皮下脂肪が付きやすいのですが、エストロゲンが減少すると脂質代謝機能が低下して、特にお腹周りに付きがちな内臓脂肪も蓄積されやすくなります。
エストロゲンには食欲を抑制する働きがあり、減少すると甘いものや高カロリーの食品を「つい食べてしまう」ことがあります。また、更年期には自律神経が乱れ、ストレスが溜まりやすくなる結果、イライラや抑うつ傾向から過食傾向になることも。慢性的なだるさから外出を控えることも体重増加につながります。
更年期に太りやすい人の特徴
Point
体重が増えて内臓脂肪が蓄積されると、動脈硬化、糖尿病、心筋梗塞といった病気のリスクも高まるため注意が必要です。
更年期に痩せるのはどんな人ですか?
一方で、更年期に「体重が落ちてしまう」と悩む人も少なくありません。大きな要因のひとつが、エストロゲンの減少で自律神経のバランスが崩れることです。
更年期に痩せる原因
胃腸の動きはリラックスしているときに活発に働きます。エストロゲンが減少すると自律神経のバランスが崩れ、消化機能がスムーズに行われず、吐き気や胃もたれ、消化不良を起こすことがあります。
自律神経の乱れからイライラや抑うつが重なると、食事をとるのがつらいと感じてしまうケースもあります。睡眠不足や喫煙・過度な飲酒といった生活習慣も自律神経を乱す原因となり、食欲不振につながります。
筋肉量が低下すると基礎代謝量が落ち、エネルギー消費量が減ります。それにより食欲の低下を招くケースもあります。食べる量が少なくなるほど体力が落ち、動かなくなって筋肉量が低下して…といった悪循環に陥ってしまいます。
更年期に痩せやすい人の特徴
Point
エストロゲンが減少すると骨密度も低下するため、痩せている人は骨粗しょう症へのリスクに要注意です。更年期以降もこの状態が続くと、健康障害を招きやすい「フレイル」へとつながる可能性もあるため、注意が必要です。
更年期の体重の増減には、どのように対処すれば良いのでしょうか?
更年期における体重管理は、「太りすぎ」「痩せすぎ」のどちらも健康リスクになり得ます。特に急激なダイエットやドカ食いなど短期間での体重変化は、ホルモンバランスをさらに崩す原因になるため避けるべきです。更年期の女性は、ダイエット(痩せること)よりも「(適正体重を)維持する」ことを目指して、日常生活の中で無理なく取り入れられる工夫を心がけましょう。
放っておくと落ちてしまう筋肉量を維持するためには、運動が欠かせません。スクワットなどの軽い筋トレやウォーキング、サイクリングなど軽い運動を継続することで、体力を保ち太りにくい体を目指しましょう。あえて運動の時間を作ることにハードルを感じる方は、階段を使ってみる、歯磨きをしながらスクワットをするなど、すき間時間を上手に使うのも手です。
偏った食生活は代謝の低下や気分の落ち込みなどの更年期症状を悪化させることがあります。最近は、食事をとっているのにたんぱく質やビタミンやミネラルの不足が進む「新型栄養失調」に陥る人も増えて問題視されています。三食規則正しく、たんぱく質・野菜・炭水化物をバランスよくとることは体調管理と体重維持の両方に役立ちます。いつもの朝食にゆで卵を足してみるなど、小さな工夫から始めてみましょう。
特に筋肉の維持に欠かせないたんぱく質は、普段の食事で不足しがちなので意識してとりましょう。大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは、体内で腸内細菌によってエクオールという女性に有用な物質に変換されることが知られています。ただしエクオールを作れる腸内細菌を持っているのは、日本人女性の約半数といわれています。
仮にエクオールを作れない体質の方であっても、たんぱく質が豊富な大豆製品は、筋肉量の低下を防ぐなど、更年期の女性へおすすすめしたい食材です。
食欲をコントロールするには、ストレスを溜めない工夫が大切です。映画・散歩・友人との会話など、自分らしく気分転換できる方法を見つけましょう。甘いものや過食といった「食べて解消」しないストレスの発散法が体重管理にも役立ちます。
睡眠の質が低下すると、自律神経やホルモンバランスの乱れを招き、代謝の低下や食欲コントロールの不調を引き起こすことがあります。就寝前のスマホやカフェインを避ける、入浴や照明の調整などでリラックスできる環境を整え、深い眠りを意識することが大切です。
更年期は、女性にとって大きな転換期です。体重変化には個人差がありますが、過度な肥満も痩せも病気につながりやすくなることが知られています。
“ダイエット”ではなく、体重の“維持”を意識して生活を見直してみれば、心と体のバランスが整いやすくなるはずです。最近は、医療機関で処方される痩せるお薬もありますが、肥満症という病気と診断された方が対象ですので、代謝を高める市販のお薬などを検討してみるのも良いでしょう。
体重の変化を「暮らしを見直すチャンス」として、できることから始めていきましょう。