「最近、胸が締め付けられるように痛くなる」「毎晩、胸が圧迫されるようで息苦しい」。このような症状はありませんか。
これまでに経験したことのない胸の痛みを感じると、「心臓の病気かもしれない」と不安になるものです。しかし更年期には、心臓や血管に病気がなくても、胸の痛みを経験することがあります。
今回は、更年期にあらわれやすい胸の痛みの原因、対処法などを解説します。
※産婦人科の高尾先生に監修を依頼し、いただいたコメントを編集して記載しています。
更年期はとくに大きな病気がないにも関わらず、次のような胸の痛みに関する症状があらわれることがあります。
痛みの持続時間はたいてい5分以内ですが、まれに30分~1時間程度続くこともあります。
このような更年期の胸の痛みは本人が症状を感じているにも関わらず、通常の心電図検査などで調べても大きな問題がみつからないため、「異常なし」と判断されてしまうことがあります。
大きな心臓の病気などがない更年期の女性が胸の痛みを訴える場合、その原因として閉経に伴う女性ホルモンの減少が関わっていると考えらえています。
女性ホルモンには、血管を拡張する作用、抗酸化作用、血中コレステロールを低下させる作用など、心臓や血管を保護する働きがあります。しかし、閉経に伴って女性ホルモンが急激に減少することで、この保護作用が弱くなり、胸の圧迫感や痛みなどの症状としてあらわれることがあります。
また、更年期による胸の痛みは、ストレスの影響も相まって発症する場合もあります。
そもそも更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間、合計で約10年間のことを指し、日本人女性の場合、平均的には45~55歳ごろの年齢が更年期にあたります。更年期は、閉経に向かって女性ホルモンの分泌が急激に減少する時期であり、この女性ホルモンの変化が様々なカラダとココロの症状をもたらします。
このような女性ホルモンの減少を背景に、更年期にあらわれる不快な症状を「更年期症状」といいます。
更年期によって起こる症状「更年期症状」は、大きく分けて自律神経失調症状(ホットフラッシュや肩こり、めまいなど)、精神的症状(情緒不安定、イライラなど)、身体的症状(関節痛、筋肉痛、消化器症状、皮膚粘膜の乾燥など)の3つに分けられます。胸の痛みは、自律神経失調症状に含まれます。
更年期症状のなかで、胸の痛みとよく似ているものが動悸の症状です。動悸は、運動をしたわけでもないのに、胸がドキドキと拍動する状態のことです。痛みの症状は伴わないため、この記事で解説している胸の痛みとは異なります。
それぞれの症状の出方には個人差が大きく、症状のために「眠れない」「寝込んでしまう」など、日常生活に支障をきたす場合は医療機関で「更年期障害」と診断されます。
とくに大きな循環器の病気がみつからないにも関わらず、更年期に胸に痛みがある場合は、「微小血管狭心症(びしょうけっかんきょうしんしょう)」という病気が隠れている可能性があります。
女性に多い病気で、狭心症とは異なります。狭心症が命に関わる病気であるのに対し、微小血管狭心症は心臓のごく細い冠動脈の機能が衰えることによって、心筋虚血(心臓を動かすための筋肉に十分な血液が運び込まれず、血液が足りない状態)が生じます。胸の圧迫感や痛み、息苦しさを感じますが、命に関わる病気ではありません。
微小血管狭心症のほかにも、胸の痛みを引き起こす病気は複数あり、なかには重篤な病気が隠れている可能性もあります。更年期は様々な病気を発症しやすい年齢でもあります。胸の痛みが続いている場合は症状をがまんしたり、「更年期のせいだろう」と自己判断をしたりせずに、婦人科もしくは循環器内科を受診し、医師に相談しましょう。
更年期の不快な症状は、女性ホルモンの減少を背景に、ストレスや疲労の影響も関係しています。
まずは日々の食事や睡眠習慣を整え、ストレスを溜めすぎないような生活を心がけましょう。また、胸の痛みについて「重い病気だったらどうしよう」と心配しすぎることも、ストレスにつながる可能性があります。そのようなときは医療機関で検査を受けて、不安を払拭することも大切です。1人でつらい症状を抱え込まず、医師や専門家に相談しましょう。
そのほか、市販の漢方薬で更年期症状を軽減する方法もあります。漢方薬は更年期症状といった女性特有の心身の不調に対し、効果を発揮します。
更年期の治療に主に使用される漢方薬は加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の3種です。
漢方薬は、患者の状態や体質に合ったものを使用することで効果を発揮します。漢方薬を使用する際は、漢方薬剤師などの専門家に症状を詳しく伝え、自分に合った漢方薬を使用しましょう。
ただし、セルフケアを行っても、胸の痛みの症状が改善しない場合、日常生活に支障をきたすほど症状がつらい場合は、婦人科や更年期外来、循環器内科などの専門の医師に相談しましょう。医師から更年期障害と診断された場合は、薬物療法を受ける選択肢もあります。
更年期には、これまでに経験したことのない胸の痛みや圧迫感といった症状を経験することがあります。
とくに、心臓や血管などに大きな病気がないにも関わらず、このような症状がある場合、更年期症状である可能性があります。その場合は更年期特有のもので、代表的な更年期症状であるホットフラッシュやイライラなどの症状と同じように、更年期を過ぎれば次第に症状がなくなる可能性があります。
女性にとっての大きな過渡期を乗り越えるために、胸の痛みなどの症状があるときは休息を心がけ、自分自身をしっかりとケアしましょう。
ただし、更年期にあたる年齢は、そのほかの循環器の病気を発症しやすい年齢でもあります。症状が続くときや心配な症状がある方は、早めに医療機関を受診してください。