生理前になると、無性にイライラして、家族や身近な人に攻撃的な態度をとってしまうことに悩む女性も多いのではないでしょうか。こうした生理前にあらわれる「イライラ」や「抑えられない怒り」は、個人の性格や精神力の問題ではなく、女性ホルモンの変化による症状である可能性があります。生理前に生じる精神的・身体的な不調は「月経前症候群(PMS)」と呼ばれ、多くの女性が日常生活の中で直面しています。
本記事では生理に関連してイライラが生じる具体的なメカニズムや、PMSの定義について詳しく解説するとともに、イライラに対するセルフケアの方法や対策についてお伝えします。
産婦人科医・医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長。「カリスマ産婦人科医」として、対応しうる限りのメディア出演、医療監修等で様々な女性のカラダの悩み、妊娠・出産、セックス・女性の性などに女性の立場からの積極的な啓発活動を行っている。
著書:「産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK-プレ妊娠編から産後編まで!(メタモル出版)「産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話」(小学館)
生理(月経)前になると、家族やパートナーに対してイライラしてしまったり、普段なら気にならないような些細な言動に激しい怒りを感じて、怒りを爆発させてしまったりする方もいるのではないでしょうか。こうしたイライラや、抑えきれない怒りの感覚は、生理前に多くの女性が直面する心の不調の1つです。厚生労働省が18~49歳のフルタイムで働く女性3,000人を対象に行った調査では、43.6%の女性が「いらだちや怒りを感じ、対人関係でのいさかいが増える」と回答しており、個人の性格の問題ではなく、多くの女性に共通する切実な課題であることが浮き彫りになっています。
このように生理前にイライラするという現象は、広く認知されている現象ですが、その詳細な発生機序については、現代医学においてもまだ完全には解明されていません。しかし、生理周期(月経周期)に伴う女性ホルモンの変動が主に関わっていると考えられています。
女性の体は約28日間のサイクルを繰り返しており、2つの主要な女性ホルモンによってコントロールされています。1つは、生理終了後から排卵にかけて分泌が増加し、子宮内膜を厚くする「エストロゲン(卵胞ホルモン)」。もう1つは、排卵後から生理開始までの期間に分泌が高まる「プロゲステロン(黄体ホルモン)」です。
生理周期の後半にあたる、排卵後から次の生理までの約14日間は「黄体期」と呼ばれます。この時期はプロゲステロンの分泌が非常に盛んになり、その働きによって妊娠に備えて子宮内膜がより厚く、柔らかい状態に整えられ、基礎体温も上昇します。
しかし、妊娠が成立しなかった場合、生理の直前にはこれら2つの女性ホルモンの分泌が急激に低下します。このホルモンバランスの劇的な「急降下」が、脳内の神経伝達物質のバランスに多大な影響を及ぼし、精神的な不安定さを招く一因であると考えられています。
とくに、生理の直前にプロゲステロンが減少することで、精神の安定を司る神経伝達物質「セロトニン」の働きが低下し、それが原因でイライラが強くなったり、攻撃性が高まったりする可能性があることが報告されています。プロゲステロンの減少による、セロトニン以外の複数の神経伝達物質の変動も複雑に絡み合い、生理前の心の不調があらわれると考えられています。
出典:「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」単純集計結果」(厚生労働省)」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf)(2026年4月10日に利用)
生理が近づくたびにイライラが強くなる場合は、月経前症候群(PMS)のサインかもしれません。PMS(Premenstrual Syndrome)とは、生理前にあらわれる心と体の不調の総称です。一般には生理開始の3〜10日ほど前から症状が出始め、生理が始まると自然に軽快・消失することが特徴です。
PMSによる精神面での代表的な症状としては、激しいイライラや怒りっぽくなることのほか、急な涙もろさ、抑うつ、不安、集中力の低下、睡眠障害などが知られています。これらの心の不調と同時に、乳房のハリや痛み、下腹部のハリ、腰痛、むくみ、頭痛、肌荒れといった体の症状を伴うことも少なくありません。症状のあらわれ方は個人差が大きく、生活への影響も様々です。
とくにイライラや怒り、絶望感、自己否定感といった精神的症状が極めて強く、自分自身をコントロールできないほどの怒りの爆発や、極端な情緒の不安定さによって、日常生活や社会生活、対人関係に深刻な悪影響を及ぼしている場合には、「月経前不快気分障害(PMDD)」と診断される場合があり、専門的な治療が必要になります。
生理前のイライラを軽減するためには、まず自身の生理周期と体調変化を客観的に把握することが大切です。手帳や体調管理アプリに、生理開始日やイライラの症状が出た日、ストレスの有無やできごとなどを詳細に記録しましょう。記録することによって、イライラが出やすいパターンが見えてきて、ある程度事前に予測できるようになり、突発的な怒りや不安に対する心理的な負担が軽減できます。
日常生活においては、生理前にリラックスする時間を確保することが大切です。休憩時間や休日には、十分な休息を確保する、定期的な運動習慣を取り入れる、過剰なストレスがかかる状況をできるだけ避けるなどの工夫をしましょう。また、バランスのよい食事をとって、体を整えることも大切です。
神経を過敏にさせやすいアルコールやカフェインの過剰摂取を控え、喫煙を避けることも、安定した心の状態を保つために有効です。
普段の生活を見直しても症状が改善しないときは、漢方薬を取り入れるのもおすすめです。漢方薬は、PMSなどの女性特有の症状に対して広く用いられており、PMS関連のイライラ等の症状を改善する効果が期待できます。
漢方医学では、様々な症状は「気・血・水」のバランスが崩れることで生じると考えられています。体と精神の活動に必要なエネルギーである「気」、体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液である「血」、不要なものを排出する体内の水分である「水」のことを指します。漢方薬が「気・血・水」のバランスを整えることで、様々な症状にアプローチします。
PMSによるイライラに対しては、加味逍遙散(かみしょうようさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、抑肝散(よくかんさん)などの漢方薬が広く用いられています。
表:PMSに伴うイライラに
広く用いられる漢方薬
| 加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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|---|---|
| 抑肝散加陳皮半夏 (よくかんさんかちんぴはんげ) |
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| 抑肝散 (よくかんさん) |
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漢方薬を効果的に使うためには、自分の体質や状態に合わせて選ぶことが大切です。医師または漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を選びましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても症状が改善しない場合や日常生活に支障が出るほどつらい場合は、医療機関を受診しましょう。
生理前のイライラは、排卵後から次の生理までの「黄体期」における女性ホルモンの急激な変動が主な原因です。妊娠が成立しなかった場合、生理の直前にエストロゲンとプロゲステロンの分泌が急激に低下します。このホルモンの急降下が脳内の神経伝達物質のバランスに影響を及ぼし、とくに精神の安定を司る「セロトニン」の働きが低下することで、イライラや攻撃性の高まりが生じやすくなると考えられています。
PMSとPMDDはどちらも生理前に生じる不調ですが、症状の重さの違いで区別されます。
PMSのイライラをやわらげるには、以下の3つのアプローチが有効です。
生理前に生じるイライラや激しい怒りは、決して個人の気持ちの持ちようや性格によるものではありません。それは排卵後~生理前の「黄体期」における女性ホルモンの急激な低下や、それに伴う脳内物質のバランスの変化に基づいた反応の1つです。
「またイライラしてしまった」「怒りを爆発させてしまった」と自分を責めるのではなく、生理周期とそれに伴うホルモン変化の影響に関する正しい知識を身につけ、自己嫌悪に陥らない姿勢を持つことが大切です。
日々の生活の中では、体調変化の記録をとり、自身の周期的なリズムをつかんでいきましょう。あらかじめ不調が訪れる時期を予測し、その時期には意識的に休息を取り、ストレスのかかる状況を避けるといった工夫が有効です。また、基本的な生活習慣の見直しや、漢方薬によるセルフケアも、女性の心と体を整え、症状を緩和する一助になります。
ただし、こうしたセルフケアのみでは解決が難しい場合や、イライラが原因で大切な人間関係や社会生活に支障が出ている場合は、決して1人で抱え込まず、早期に医療機関を受診し、医師の診断と治療を受けましょう。
「つらい生理痛や生理不順の原因は?症状と和らげる方法」「PMS(月経前症候群)」に関して
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