生理前の『吐き気』が
つらい。
原因と対処法を解説

生理が近づくにつれ、吐き気や胃の不快感が出ることがあります。「胃腸の調子が悪いのかな?」「妊娠のサイン?」と不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。生理前の不快な症状は、PMS(月経前症候群)に伴う一時的な症状の可能性があります。一方で、吐き気は妊娠初期の「つわり」とも似ているため、自分の体に何が起きているのかを正しく見極めることが大切です。

本記事では、生理前に吐き気が生じるメカニズムや妊娠初期症状との違い、症状をやわらげるための具体的な対処法を詳しく解説します。

  • 弊社から宋先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。

監修者プロフィール

宋 美玄 先生
宋 美玄ソン ミヒョン 先生

産婦人科医・医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長。「カリスマ産婦人科医」として、対応しうる限りのメディア出演、医療監修等で様々な女性のカラダの悩み、妊娠・出産、セックス・女性の性などに女性の立場からの積極的な啓発活動を行っている。

著書:「産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK-プレ妊娠編から産後編まで!(メタモル出版)「産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話」(小学館)

生理前の吐き気の症状

「吐き気」や「胃の不快感」は、生理(月経)前の女性が経験しやすい症状の1つです。この時期は、医学的には「PMS(月経前症候群)」と呼ばれる、生理前の心と体の不調があらわれるタイミングと一致しています。PMSとは生理開始日の3〜10日前から始まる精神的あるいは身体的症状の総称です。生理が始まるとその症状が軽減または消失するのが大きな特徴です。

「吐き気」は、PMSの代表的な症状としては報告されていないものの、PMSの身体的症状のなかには、腹痛、腹部膨満感(おなかの張り)、便秘といった消化器系の不調が知られています。そのため、これらの消化器症状を「吐き気」として感じる可能性は考えられます。一方、吐き気が生理前だけでなく、生理開始後も続いていて、激しい腹痛を伴って日常生活に支障をきたしている場合には「月経困難症」の可能性を考慮する必要があります。月経困難症は、強い生理痛や吐き気が生じる状態であり、その背景には、子宮内膜症などの婦人科系の病気が隠れていることもあるため注意が必要です。

吐き気がどのタイミングであらわれ、生理が始まると軽快するのか、あるいは生理中も続くのかなど、生理周期との関係を把握することが、適切なケアへの第一歩となります。

生理前に吐き気が生じる原因

生理前の吐き気を含むPMSの原因は、はっきりとは解明されていません。しかし、生理周期(月経周期)における女性ホルモンの変動が、消化器系の働きに影響を及ぼすと考えられています。

女性の生理周期は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンが交互に分泌のピークを迎えることで、約28日間のサイクルを維持しています。排卵後、つまり生理周期の後半は、エストロゲンに代わってプロゲステロンの分泌が急激に増え、「黄体期」と呼ばれる時期に入ります。このプロゲステロンは、本来、女性の子宮内膜をより厚く、柔らかくし、体温を上げて妊娠しやすい体を維持する働きがあります。しかし同時に、プロゲステロンには、胃腸を動かす筋肉の動きを抑えて、その動きを低下させる作用があることがわかっています。これによって、食べ物を消化して送り出すスピードがゆっくりとなり、お腹にガスが溜まって張りを感じやすくなったり、胸やけや吐き気のような症状を感じやすくなったりすると考えられます。

「吐き気」はPMSの代表的な症状ではないものの、実際には、生理前には約70%の女性が腹部膨満感や便秘、吐き気などの消化器系の不調を経験しているという報告もあり、多くの女性が悩んでいることがわかります。

生理前の吐き気と
妊娠初期症状の違い

生理前の吐き気の症状は、PMSに関連している場合もありますが、一方で妊娠初期の「つわり」である可能性もあります。妊娠初期のつわりは、早い方では生理予定日(妊娠4週目)の前後からあらわれはじめ、妊娠5〜6週目頃から本格化します。この時期はPMSの症状があらわれはじめるタイミングでもあります。

PMSに関連した吐き気と、つわりによる吐き気を見分けるための目安は、症状の「持続性」と「生理の有無」です。生理前の女性ホルモンの変化に伴う吐き気であれば、生理が始まることで体内のホルモンバランスがリセットされ、症状はすみやかに消失または軽減します。一方で、妊娠による症状の場合は生理予定日を過ぎても出血が起こらず、吐き気が続いたり、日ごとに強まったりする傾向があります。

また、基礎体温の記録も判断材料の1つとして有効です。通常、生理の直前には基礎体温が下がり、その後すみやかに生理による出血が始まります。しかし、妊娠している場合は「高温期」と呼ばれる通常より体温が高い状態がしばらく続きます。生理予定日から1週間以上過ぎても生理が来なくて、吐き気が続いている場合は、早めに産婦人科を受診しましょう。

生理前の吐き気の対処法

生理前になると、吐き気に悩まされているという方は、自分自身の体を理解することが大切です。基礎体温や生理開始日などを記録するとともに、症状日誌をつけ、吐き気が出た日、睡眠時間・食生活の状況、ストレス・頭痛・腹痛の有無などをメモしておき、自分のリズムを把握しましょう。これらの記録は、婦人科の受診時に役立つ可能性があります。

食べ物に関しては、玄米・全粒粉パンなどの穀類、野菜など食物繊維を豊富に含む食材、カルシウム、ビタミンB6を含む栄養価の高いものを取り入れましょう。一方で、精製された糖やアルコールの摂取、喫煙は控えましょう。

とくに吐き気がひどくて食欲がないときは、無理をせず、食べやすいものを少しずつとりましょう。

食生活を見直しても改善が見られない場合は、漢方薬を取り入れるのもおすすめです。漢方薬は、PMSなどの女性特有の症状に対して広く用いられており、PMSやそれに伴う諸症状を改善する効果が期待できます。

漢方薬の治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」と、今出ている症状をやわらげる「標治」という2つのアプローチがあります。PMSとそれに伴う諸症状である吐き気の症状の根本的な原因には、生理に伴うホルモンの変化が関わっていることから、本治のアプローチとしては、加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3種類の漢方薬がよく用いられています。

表:PMSに広く用いられる漢方薬

加味逍遙散
(かみしょうようさん)
  • 血の道症(月経、妊娠、出産、産後など女性ホルモンの変動に伴ってあらわれる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のこと)や冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、不眠症などに用いられる
  • 体力が中等度以下で、のぼせ感、肩こりがあり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある方に向いている
当帰芍薬散
(とうきしゃくやくさん)
  • 月経不順や月経異常、月経痛、めまい、肩こり、腰痛、むくみなどに用いられる
  • 体力が虚弱で、冷え症や貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などのある方に向いている
桂枝茯苓丸
(けいしぶくりょうがん)
  • 血の道症や月経不順、月経異常、月経痛、肩こり、めまいなどに用いられる
  • 比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、めまい、のぼせ、足の冷えがある方に向いている

一方、吐き気、胃のむかつきなどの不快な症状に対しては、症状をやわらげる「標治」のアプローチとして、次のような漢方薬がよく用いられます。

表:吐き気に広く用いられる漢方薬

六君子湯
(りっくんしとう)
  • 胃炎や胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐に用いられる
  • 体力が中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすい方に向いている
補中益気湯
(ほちゅうえっきとう)
  • 虚弱体質や疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒に用いられる
  • 体力が虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすい方に向いている
半夏瀉心湯
(はんげしゃしんとう)
  • 急・慢性胃腸炎、下痢・軟便、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症に用いられる
  • 体力が中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向の方に向いている
半夏厚朴湯
(はんげこうぼくとう)
  • 不安神経症や神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、のどのつかえ感に用いられる
  • 体力が中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気(おうき)などのある方に向いている

漢方薬を効果的に使用するには、今の体質に合ったものを選ぶ必要があります。医師または漢方薬剤師などの専門家に相談し、自分に合った漢方薬を見つけましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても症状が改善しない場合や日常生活に支障が出るほどつらい場合は、医療機関を受診しましょう。

よくあるご質問

生理前の吐き気はいつから始まって、いつおさまる?

生理前の吐き気は、生理開始日の3~10日前から始まり、生理開始後に軽減または消失するのが特徴です。

  • 始まりのタイミング:PMSの症状として、生理の3~10日前から吐き気・胃の不快感があらわれることがあります。
  • おさまるタイミング:生理が始まると体内のホルモンバランスがリセットされ、症状はすみやかに軽減または消失します。

なお、生理が始まっても吐き気が続き、激しい腹痛を伴って日常生活に支障をきたす場合は、月経困難症の可能性があるため医療機関を受診しましょう。

生理前の吐き気と妊娠初期の吐き気(つわり)の見分け方は?

「症状の持続性」と「生理の有無」が主な見分けのポイントです。

  • 症状の消失:生理前の吐き気はホルモンバランスのリセットにより生理開始とともにすみやかに消失します。つわりの場合は、生理予定日を過ぎても吐き気が続くか、日を追うごとに強まる傾向があります。
  • 生理の有無:PMSに伴う吐き気であれば生理予定日に出血が生じる、妊娠の場合は生理予定日を過ぎても出血がありません。
  • 基礎体温:生理直前は基礎体温が下がるが、妊娠している場合は高温期が続きます。生理予定日から1週間以上過ぎても生理が来ないが、吐き気が続いている場合はすみやかに産婦人科を受診しましょう。

生理前の吐き気を理解して、
上手に付き合いましょう

生理前の吐き気は、多くの女性が経験する悩みです。この不調は、生理周期の後半に増加するプロゲステロンの作用によって、胃腸の動きが抑制されることが一因であると解明されつつあります。自分の生理周期や症状のパターンを正しく把握し、ホルモンの変化の影響について知識をもっておくことで、漠然とした不安を解消し、適切なケアを選択することができます。

日々、自身の体に向き合うことを通じて揺らぎやすい心身の状態を客観的に見つめ直し、食事内容の工夫や漢方薬の活用など、自分に合った改善策を取り入れてみてください。ただし、吐き気が日常生活を妨げるほど重い場合や、生理予定日を過ぎても体調が戻らない場合は、医療機関を受診し、医師に相談しましょう。

「つらい生理痛や生理不順の原因は?症状と和らげる方法」「PMS(月経前症候群)」に関して
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