生理が近づくにつれ、日中に強い眠気に襲われたり、頭がぼーっとして仕事や家庭生活が手につかなくなったりすることはありませんか。「寝不足のせいかな」「自分のやる気の問題かも?」と、自分を責めてしまう方もいるかもしれませんが、自分ではコントロールできない眠気はPMS(月経前症候群)の症状かもしれません。
本記事では、生理前に眠気が起こるメカニズムと、この時期を快適に過ごすための対処法を詳しく解説します。
産婦人科医・医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長。「カリスマ産婦人科医」として、対応しうる限りのメディア出演、医療監修等で様々な女性のカラダの悩み、妊娠・出産、セックス・女性の性などに女性の立場からの積極的な啓発活動を行っている。
著書:「産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK-プレ妊娠編から産後編まで!(メタモル出版)「産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話」(小学館)
とくに夜更かしをしたわけではないのに生理(月経)前になると生じる眠気は、PMS(月経前症候群)の症状の1つです。PMSとは、生理開始日の3〜10日ほど前からあらわれる、心と体の様々な不調の総称です。生理の開始とともに症状が軽快したり、消えていったりするのが大きな特徴です。
PMSの不調はイライラや腹痛など多岐にわたりますが、なかでも「眠気」は、多くの女性が悩まされる代表的な症状として知られています。
たとえば、睡眠時間は確保しているのに朝の寝覚めが悪い、通勤・通学中や仕事中にふと寝落ちしてしまいそうになる、強い眠気で横になりたくなる、短い仮眠を取らないと持ちこたえにくい、といった形であらわれます。こうした眠気が毎月、生理前にまとまって起こり、生理が始まると軽くなる場合は、PMSによる眠気の可能性があります。
生理前に強い眠気が生じるのには、生理周期をコントロールしている女性ホルモンの変動が深く関わっています。女性の生理周期は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンが交互に分泌のピークを迎えることで、約28日間のサイクルを維持しています。排卵後、つまり生理周期の後半は、エストロゲンに代わってプロゲステロンの分泌が急激に増え、「黄体期」と呼ばれる時期に入ります。このプロゲステロンには体温を上昇させる働きがあるため、生理前の体は「高温期」と呼ばれる状態になります。通常、人は夜間に「深部体温(体の内部の温度)」が下がることで深い眠りにつきますが、生理前は夜になっても体温が下がりにくいため、夜間に熟睡しにくくなってしまうと考えられています。また、経血の漏れが気になって熟睡できない、寝返りを打てないなどの事情が影響することもあります。その結果、夜間の眠りが浅くなった分を取り戻そうとして、日中の眠気が増加します。
さらに、プロゲステロンには、脳内の神経系に作用してリラックスさせ、眠気を誘う作用があることもわかっています。この影響により、本来は活動的であるはずの日中にうとうとしてしまったり、強い眠気を感じたりしやすくなると考えられています。
このように、生理前には、体温が高くなることで夜の眠りが妨げられることや、プロゲステロン自体がもつ眠気を誘う作用との2つの要因が重なり、眠気が生じます。決して、本人のやる気や不摂生の問題ではなく、ホルモンの急激な変化に対応しようとしているサインであることを知っておきましょう。
生理前の眠気に悩まされているときは、まず自分の生理周期のリズムを知り、症状との関連を観察することから始めましょう。体調管理アプリなどを活用し、生理の記録とともに、眠気の強さをメモしておき、眠気が強まりやすい時期を事前に把握しておきましょう。自分のリズムを知ることで、生理前には無理な予定を入れずにゆっくり過ごす準備ができます。
生活の中では、日中は日光を浴びるようにして、夜間は照明を落とした暗い部屋で過ごすことを心がけ、昼と夜の生活にメリハリをつけましょう。また、規則的に食事を摂取することで、体内時計が整い、よい睡眠が得られやすくなります。
どうしても眠いときは、昼寝をするのもいいでしょう。ただし、遅い時間に昼寝をしたり、寝すぎたりすると夜間の睡眠を妨げてしまうため、遅くとも昼寝は午後3時までとし、30分以内の短い仮眠にしましょう。
また、PMSに対しては漢方薬を試すのもおすすめです。漢方薬のなかには、PMSのような女性特有の心と体の不調に効果が期待できるものがあります。
漢方医学では、様々な症状は「気・血・水」のバランスが崩れることで起こると考えられています。体と精神の活動に必要なエネルギーである「気」、体をめぐり、栄養や老廃物を運ぶ血液である「血」、不要なものを排出する体内の水分である「水」のことを指します。漢方薬が「気・血・水」のバランスを整えることで、様々な症状にアプローチします。
漢方薬による治療には、体質そのものの改善を目指す「本治」というアプローチによってそれに伴う諸症状の改善を目指します。
PMSによる眠気の根本的な原因としては、生理前のホルモンバランスの変化が関わっていることから、このバランスを整えるため、加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3種の漢方薬がよく用いられています。
表:PMSに広く用いられる漢方薬
| 加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
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|---|---|
| 当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん) |
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| 桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん) |
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漢方薬を効果的に使うには、自分の体質や状態に合ったものを選ぶことが大切です。医師または漢方薬剤師などの専門家に相談して、今の自分に合った漢方薬を選びましょう。ただし、これらのセルフケアを行っても症状が改善しない場合や日常生活に支障が出るほどつらい場合は、医療機関を受診しましょう。
排卵後に増加するプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つの作用が重なることで、生理前に強い眠気が生じます。
生活リズムを整えて体内時計を安定させることが、生理前の眠気の対処に効果的です。
生理前にやってくる強い眠気は、「怠け」や「やる気」の問題ではなく、生理周期に伴う女性ホルモンの急激な変動に体が対応しようとしているサインです。生理周期の後半には、ホルモンバランスが大きく変化することで、体は次のサイクルへと向かうための準備をしています。
毎月訪れるこの時期を「ガマンして過ごす時間」にするのではなく、自分をいつも以上に労わり、休ませる大切な期間として捉えるようにしましょう。眠気がつらいときは、まずは自分の体の声に耳を傾け、自身のリズムを把握し、睡眠環境を整えたり、日中の過ごし方を工夫したりして、セルフケアを心がけることが大切です。
PMSの症状に対しては、漢方薬によるセルフケアでも改善が期待できます。ただし、セルフケアを行っても改善がみられないときや、日常生活に支障が出るほど眠気がつらいときは、無理をせず医療機関を受診し、医師に相談しましょう。自分のリズムを大切にしながら、生理周期とうまく付き合い、心地よいバランスを見つけていきましょう。
「つらい生理痛や生理不順の原因は?症状と和らげる方法」「PMS(月経前症候群)」に関して
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