ニュースリリース
<国際学術誌「PLOS One」に掲載>
ビタミンC誘導体・セージエキスに関する新知見
~シミの一因“慢性炎症”を防ぐ世界初のシミ対策~
小林製薬株式会社(本社:大阪市、社長:豊田 賀一)は、近畿大学(本部:大阪府東大阪市、学長:松村 到) 薬学総合研究所 森山 博由准教授との共同研究にて、ビタミンC誘導体(L-アスコルビン酸 2-グルコシド)※1およびセージエキスが、紫外線や加齢に伴う慢性炎症で生成される炎症性物質(GM-CSF)※2の発現を抑制することにより、シミの原因となるメラニンの生成を防ぐ作用を発見しました※3。本研究成果は国際学術誌「PLOS One」に6月10日付で掲載されました。
研究ダイジェスト(図1)
- 独自研究※3に基づいて選定したセージエキスのシミ抑制効果を確認しました。
- ビタミンC誘導体およびセージエキスは、表皮細胞に作用し、炎症性物質(GM-CSF)の量を減らすことで、メラニン生成を防ぐことを発見しました。
- ビタミンC誘導体の作用として慢性炎症の抑制作用が明らかとなり、一成分で多面的にシミにアプローチできる可能性が示されました。
図1:ビタミンC誘導体とセージエキスのシミ抑制メカニズム
図2:シミができるメカニズム
論文の概要
1.背景
シミの原因であるメラニンの生成経路は非常に複雑です。皮膚に紫外線があたると、表皮細胞から様々な情報伝達物質が分泌され、メラニン生成の引き金となります。命令を受け取った色素細胞はメラニンを生成し、メラニン集合体(メラノソーム)として表皮細胞へと受け渡します。このメラノソームが分解・排出されずに表皮内に蓄積するとシミとなって現れます(図2)。このようにメラニン生成の過程は複雑であり、どこか一ヵ所を阻害するだけではシミを完全に抑制することはできません。
ビタミンC誘導体(L-アスコルビン酸 2-グルコシド)は、シミを防ぐ医薬部外品の有効成分として広く用いられています。この成分は、色素細胞に対して直接的に作用し、メラニン生成を抑制することでシミを防ぐ効果が知られています。当社は長年のシミ研究を進める中で、ビタミンC誘導体によるメラニン生成の抑制作用を高める素材としてセージエキスを見出しました。
本研究では、シミに対する作用があまり知られていなかった植物素材「セージエキス」と、シミ対策成分「ビタミンC誘導体」を組み合わせた新たなシミ対策アプローチを探索しました。特に、メラニン生成を促す炎症性物質に着目した検討を行いました。
2.研究内容
紫外線のダメージを受けた表皮細胞にて産生される炎症性物質の量を調べたところ、セージエキスを添加することによって、メラニン生成を促す炎症性物質(GM-CSF)の遺伝子であるCSF2の発現量が減少していました。ビタミンC誘導体を添加した場合においても同様の作用が確認されました。表皮細胞における炎症性物質の産生抑制という作用はこれまで知られておらず、ビタミンC誘導体の新たな機能を発見しました。(図3)。
図3:CSF2遺伝子の発現抑制効果
試験方法:
表皮細胞に紫外線を照射し、セージエキスまたはビタミンC誘導体を添加して、色素細胞と共培養を行った。2日後、表皮細胞 よりmRNA を精製し、cDNA を作成してから定量的PCR 法にてCSF2遺伝子の発現量を解析した。
***P<0.001, ****P<0.0001 (One-way ANOVA followed by Dunnett’ s test)
また、表皮細胞から放出される炎症性物質を介して、色素細胞におけるメラニン生成を抑制するのか検証するため、表皮細胞と色素細胞を同時に培養する間接培養系を確立し、ビタミンC誘導体、セージエキスの間接的なメラニン生成抑制作用を検証しました。
コントロールの細胞では、表皮細胞に紫外線を照射することで、炎症性物質が放出され、間接的に共培養した色素細胞におけるメラニン生成量が増加していました。その一方で、ビタミンC誘導体、セージエキスを添加した場合は、色素細胞におけるメラニン生成が減少していました(図4)。
図4:表皮細胞を介したメラニン生成抑制効果
試験方法:
色素細胞をディッシュに、表皮細胞はインサートへ播種した。表皮細胞に紫外線を照射し、セージエキスまたはビタミンC誘導体を添加して、色素細胞と共培養を行った。2日後に細胞を回収して、メラニン量の測定を行った。メラニン量をタンパク質量で補正したものをメラニン生成量とし、メラニン生成抑制効果を評価した。データは4回の独立した実験から算出した平均値±SEMによってプロットした。
*P<0.05, ***P<0.001、****P<0.0001(One-way ANOVA followed by Dunnett’s test)
3.成果
本研究では、ビタミンC誘導体およびセージエキスが、紫外線ダメージを受けた表皮細胞に作用し、メラニン生成を促す炎症性物質(GM-CSF)の産生を抑制することを見出しました。表皮細胞における炎症性物質の量を減らすことで、色素細胞におけるメラニン生成を間接的に抑制し、シミの形成に対して効果を発揮していると考えられます。
状態で産生量が増加する炎症性物質(SASP因子)としても知られています。色素細胞と、その周辺環境にアプローチできるビタミンC誘導体は、シミに悩む幅広い年齢層の方々に有効であると考えられます。本成果を今後の研究や製品開発に応用してまいります。
[※1: ビタミンC誘導体(L-アスコルビン酸 2-グルコシド)とは?]
ビタミンCにグルコースが結合した構造であるため、水と混ざっても熱や光に強く高い安定性を保つ成分です。体内でゆっくりと代謝されることで、ビタミンCとしての効果を長期間にわたり発揮し続けるため、持続型ビタミンCと呼ばれています。
[※2: 炎症性物質GM-CSFと慢性炎症とは?]
GM-CSF(granulocyte macrophage colony stimulating factor, 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)は、CSF2遺伝子から産生される炎症性物質で、表皮細胞から産生されると、メラニン生成を促すことが報告されています(引用文献1)。また、老化に伴う慢性炎症の際に生み出されるSASP因子としても知られています(引用文献2)。
肌の慢性炎症状態が継続することで、色素細胞を刺激し、シミやくすみを悪化させると考えられています。また、コラーゲンやエラスチンなどの分解を引き起こすことで、肌のハリや弾力が失われ、しわやたるみの原因になると言われています。つまり、慢性炎症の一因であるGM-CSFの発現量を抑えることで、シミ対策効果が向上する可能性があります。
[※3: セージエキス及びビタミンC誘導体の新規シミ抑制メカニズムを発見]
オートファジー活性に着目し、世界初のシミ対策技術に応用(2023年4月)https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2023/20230427_01/
【研究成果の発表先】
本研究成果は、国際学術誌「PLOS One」に掲載されました(2025年6月10日付)。また、本研究成果の一部は、国際的な化粧品技術の研究発表会である「第34回 国際化粧品技術者会連盟学術大会 2024(IFSCC BRAZIL Congress 2024)」(2024年10月14日~17日、ブラジル・イグアス)にてポスター発表しました。
学術誌名 | PLOS One |
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タイトル | Sage extract and ascorbic acid derivative inhibit melanogenesis via downregulating keratinocyte-derived GM-CSF |
著者名 | Hirokazu Kubo, Mariko Moriyama, Saya Goto, Yuko Miyake, Maki Nakamura, Yuki Ozeki, Yukio Nakamura, Hiroyuki Moriyama |
引用文献
- Fu, C., et al., Roles of inflammation factors in melanogenesis (Review). Mol Med Rep, 2020. 21(3): p. 1421-1430.
- Coppé, J.P., et al., Senescence-associated secretory phenotypes reveal cell-nonautonomous functions of oncogenic RAS and the p53 tumor suppressor. PLoS Biol, 2008. 6(12): p. 2853-68