ニュースリリース

レポート

「第35回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)カンヌ大会」にて発表。

世界初*1、ナイアシンアミドの新たな抗老化作用を発見

シワの一因“コラーゲンの減少”メカニズムを解明し、多角的なアプローチが可能に。

小林製薬株式会社(本社:大阪市、社長:豊田 賀一)は、老化した細胞では正しい構造を取れなかった異常なコラーゲンの凝集体が蓄積することを明らかにし、ナイアシンアミド*2にこの異常なコラーゲン凝集体を除去する作用を発見しました。本研究成果は化粧品における最も権威ある学会である「第35回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)カンヌ大会」(2025年9月15日~18日、フランス・カンヌ)にてポスター発表しました。

*1 PubMedに掲載された論文情報に基づく(2025年9月10日現在「老化細胞×ナイアシンアミド×コラーゲン」で検索)

研究成果のポイント

■老化した細胞ではコラーゲンが正しい構造を取れずに細胞内で凝集体として蓄積することが明らかに。
■ナイアシンアミドが老化細胞*3に作用し異常なコラーゲン凝集体を除去することを発見。

本研究によりナイアシンアミドは従来から知られていたコラーゲンの産生を高めるだけではなく、コラーゲンを正常に保つことで多角的にシワにアプローチできる可能性が示されました。

図1:老化細胞における異常コラーゲンの蓄積と、ナイアシンアミドの異常コラーゲン除去作用

図1:老化細胞における異常コラーゲンの蓄積と、ナイアシンアミドの異常コラーゲン除去作用

〈研究背景〉

真皮に存在するコラーゲンは、肌のハリや弾力にとって重要な要素ですが、加齢とともに減少することでシワやたるみの原因となると考えられています。近年、加齢に伴い体内で老化細胞が増加し、蓄積することが分かってきました。また、老化細胞は炎症性サイトカインなどを分泌して周囲の細胞に悪影響を及ぼすことが知られていますが、老化細胞とコラーゲンの減少との関係は詳しく分かっていませんでした。

本研究では、老化細胞がコラーゲンの質にどのような影響を与えるのか、さらに、老化細胞に蓄積した異常コラーゲンの凝集体に対するナイアシンアミドの働きに着目し、研究を進めました。

〈研究内容〉

1.1.老化細胞では「コラーゲン凝集体」が蓄積する。

老化細胞の内部において、コラーゲンが正しい構造を取れずに「コラーゲン凝集体」として蓄積していることを世界で初めて発見しました(図2)。これは、老化細胞で新しく作られたコラーゲンの品質管理が上手くいかず、細胞内にゴミのようにコラーゲンが溜まってしまうことを意味します。具体的には、コラーゲンを正しい構造にするために重要な分子「HSP47」の発現が減少し、正常なコラーゲン生産が低下します。同時に、損傷したタンパク質を分解する「オートファジー*4」の機能も低下するため、コラーゲン凝集体が細胞内に溜まってしまいます。

このようにコラーゲンの品質管理が破綻することが、老化に伴うコラーゲンの減少に大きく関わっている可能性が明らかになりました。

2.ナイアシンアミドがオートファジーを活性化。コラーゲン凝集体の分解を促進。

化粧品に広く使用されている成分であるナイアシンアミドが、老化細胞内に蓄積したコラーゲン凝集体を減少させることが分かりました(図2)。これは、ナイアシンアミドが肌に対して抗老化作用を発揮する新たなメカニズムを示しています。

通常、正常な細胞ではコラーゲン凝集体が形成されると、細胞内の不要な物質を分解する仕組みである「オートファジー」の働きによって分解されますが、老化細胞ではこのオートファジーの働きが低下していると考えられています。本研究により、ナイアシンアミドがオートファジーの活性を高めること(図3)が明らかとなり、同成分によるコラーゲン凝集体除去作用のメカニズムの一つであることが示されました。

図2:老化細胞における異常コラーゲンの蓄積とナイアシンアミドの異常コラーゲン除去作用

図2:老化細胞における異常コラーゲンの蓄積とナイアシンアミドの異常コラーゲン除去作用

試験方法:
ドキソルビシンにより老化を誘導した線維芽細胞にナイアシンアミドを添加し4日間培養した。培養後蛍光免疫染色法でtype1コラーゲンおよびタンパク質凝集体を検出し、共局在している部分の蛍光強度を算出した。
*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001 (One-way ANOVA followed by Dunnett’s test)

図3:ナイアシンアミドのオートファジー活性化作用

図3:ナイアシンアミドのオートファジー活性化作用

試験方法:
RFP(赤色蛍光色素)、GFP(緑色蛍光色素)およびLC3(オートファジーマーカー)を融合させ細胞内で安定的に発現させたのち、ナイアシンアミドを添加し24時間培養した。培養後、RFPおよびGFPの蛍光強度比を指標にオートファジー活性を算出した。
**P<0.01 (t-test)

〈まとめ〉

本研究は、老化細胞がコラーゲンの品質管理を妨げることで皮膚の老化に影響をおよぼすという新しい知見を提供しました。老化細胞では不要な物質を分解する細胞の「掃除」機能であるオートファジーの働きが低下し、コラーゲン凝集体が蓄積することが明らかになりましたそして、この問題に対してナイアシンアミド、オートファジーの活性を高めることでコラーゲン凝集体を減少させる効果がある可能性が示されました。

このように、老化細胞にアプローチして皮膚の老化を抑制することは、新しいアンチエイジングスキンケア製品の開発に繋がることが期待されます。今後もこうした知見を踏まえ、シワ・たるみなどの肌トラブルへの本質的な理解をより一層深めてまいります。

*2 ナイアシンアミドとは

ナイアシンアミドは、ビタミンB群の一種で、化粧品成分として広く使われています。肌のバリア機能の改善や、メラニンの生成を抑える効果などが知られていますが、近年、その多様な働きが注目されています。

*3 老化細胞とは

老化細胞は、加齢とともに体内に蓄積する、分裂を停止した細胞です。これらの細胞は炎症を引き起こす物質を放出し、周囲の健康な細胞に悪影響を及ぼし、体の機能低下や様々な病気の原因になると考えられています。

*4 オートファジーとは

オートファジーは、細胞が自身の中の古くなったタンパク質や不要な細胞内小器官を分解し、再利用する仕組みです。細胞の「掃除」や「リサイクル」機能とも例えられ、細胞を健康に保つ上で重要な役割を担っています。

【研究成果の発表先】

本研究成果は、国際的な化粧品技術の研究発表会である「第35回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)カンヌ大会」(2025年9月15日~18日、フランス・カンヌ)にてポスター発表しました。

タイトル:Mechanisms of Collagen Homeostasis Disruption in Senescent Cells and Novel Role of Niacinamide: Enhancing Autophagy and Preventing Misfolded Collagen Accumulation with Cellular Senescence

発表者名:Akira Hagino, Mitsuhiro Gomi, Hiroko Yano

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