ニュースリリース

レポート

小林製薬と北里大学、
医療へ繋ぐ「橋渡し研究」として
漢方薬「() (ちゅう) (えっ) () (とう)」の感染防御に関する薬理試験データを共同で取得

小林製薬株式会社
北里大学

小林製薬株式会社(大阪府大阪市、社長:小林章浩)と北里大学(東京都港区、学長:島袋香子)は、インフルエンザウイルスを用いた飛沫感染試験(非臨床試験)にて、漢方薬「補中益気湯」の予防的な感染防御に関する薬理試験データを共同で取得しました(概要図)。本研究成果は2021年3月26日~29日に開催されました日本薬学会第141年会にて発表いたしました。今後も、両者は基礎研究を臨床現場へ繋げる「橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ※1)」を推進し、漢方薬の薬理研究やエビデンス構築に共同で取り組んでまいります。

※本研究はあくまで薬理試験のデータであり、ヒトでの感染予防データを示すものではありません。

インフルエンザウィルスを用いた飛沫感染試験における「補中益気湯」の作用

研究者コメント

北里大学 大村智記念研究所 和漢薬物学研究室 教授
北里大学 東洋医学総合研究所 基礎研究部 室長 清原 寛章

今回の研究から、「補中益気湯」には飛沫感染試験における予防的な感染防御作用が認められ、漢方薬がウイルス感染症対策の一助になる可能性が示されました。なお、「補中益気湯」にはビャクジュツ*2配合の処方とソウジュツ*3配合の処方がありますが、我々のこれまでの研究ではソウジュツ配合の「補中益気湯」が先天性感染防御免疫*4系や獲得免疫系を賦活化させることを確認しており、今回の研究にもソウジュツ配合の「補中益気湯」を使用しました。引き続き、感染症に対する漢方薬のエビデンス構築に向けて研究を進めてまいります。

北里大学 東洋医学総合研究所 所長 小田口 浩

北里大学 東洋医学総合研究所 所長 小田口 浩

漢方薬は古くから感染症に用いられてきた歴史があります。また、疲れが長引くと免疫力が低下することが知られていますが、「補中益気湯」には疲労を改善する効果も期待できます。ヒトへの応用を考える場合、薬理作用の解明が重要となりますが、今回の研究で「補中益気湯」の感染防御に関する薬理作用の一端を明らかにすることができました。今後も「補中益気湯」をはじめとする漢方薬の評価を進め、得られた結果を両者で積極的に発信することで、漢方薬の新たな活用法を提案していきたいと思います。

研究の背景

小林製薬と北里大学の設置法人である北里研究所は2019年1月に漢方生薬の活用と更なる応用を目的に、業務提携に関する基本合意を締結しました。ウイルス感染症に対する人々の関心が高まる中、両者は感染予防に役立つ漢方薬を探索してきました。その結果、疲労倦怠や食欲不振に用いられてきた漢方薬「補中益気湯」に、感染防御免疫系を活性化し、ウイルスに対する生体防御反応を高める薬理作用があることを見出しました(図1)。

そこで、得られた基礎研究の結果を臨床現場へ繋ぐトランスレーショナルリサーチの一環として、実際の生きたウイルスが漂う環境下で、「補中益気湯」の感染防御作用を明らかにするため、飛沫感染試験(非臨床試験)を実施することにしました。

(図1)「補中益気湯」の感染防御免疫系活性化作用

研究方法

評価用RNAウイルス*5としてインフルエンザウイルスPR8[A/PR/8/34 (H1N1)]を用いました。ウイルスを充満させた密閉空間に、あらかじめ漢方薬を7日間経口的に与えたマウスを密集・密接させた状態で1時間滞在させました(図2)。その後も漢方薬を与え続け、感染症状の経過を観察しました。漢方薬としては「補中益気湯」の他に、感染症や呼吸機能の改善に用いられるものについても評価しました。

(図2)感染方法

研究結果

1.「補中益気湯」は体内でのウイルス増殖を抑制する

体内に取り込まれたウイルスの増殖に対する効果を確認するため、感染6日目の肺ウイルス量を測定したところ、「補中益気湯」を投与したマウスは、肺からウイルスが検出されるものの、増殖抑制作用が認められました。また、他の漢方薬と比べても優れた効果であることを確認しました(図3)。

(図3)「補中益気湯」の体内でのウィルス増殖に対する作用

2.「補中益気湯」は感染症状を抑える

感染後の経過を観察したところ、漢方薬を与えていないマウスでは、毛艶が悪い、軽度な行動低下、などの感染症状と考えられる一般状態の悪化が確認されました。一方、「補中益気湯」を投与したマウスではすべての個体で毛艶の悪化は認められず、行動低下も認められませんでした(図4)。

(図4)「補中益気湯」の感染症状に対する作用

以上の共同研究結果から、「補中益気湯」に予防的な感染防御に関連した薬理作用が確認できました。本研究データは日本薬学会第141年会にて発表し、医療関係者や医学・薬学研究者へ情報提供及び意見交換いたしました。今後も両者の提携活動による成果として、「補中益気湯」をはじめとする感染防御免疫系を強化する漢方薬の薬理活性を評価・公表し、医師による臨床研究、その先の漢方薬を用いた感染症対策に繋げることで、社会に貢献していきます。

用語解説

  1. *1:トランスレーショナルリサーチ
    基礎研究の成果を臨床現場での実用化へ橋渡しするために実施する研究です。

  2. *2:ビャクジュツ
    オケラまたはオオバナオケラの根茎を乾燥させた生薬です。

  3. *3:ソウジュツ
    ホソバオケラの根茎を乾燥させた生薬です。

  4. *4:免疫
    文字通り「疫を免れる(=病気にならない)」ための生体防御機構のことです。主に、血液中のリンパ球が中心となって体内に侵入した異物を身体から排除する仕組みであり、特にウイルスや菌が原因となる感染症に対する免疫を「感染防御免疫」といいます。

  5. *5:RNAウイルス
    ウイルスは遺伝子構造の違いでDNAウイルスとRNAウイルスという2種類に大別されます。通常RNAウイルスはDNAウイルスよりも変異速度が速いのが特徴です。呼吸器感染症に関わるRNAウイルスは、インフルエンザウイルス、ライノウイルスなどです。

WEBサイト

◯学校法人北里研究所 https://www.kitasato.ac.jp/jp/index.html

◯北里大学 東洋医学総合研究所 https://www.kitasato-u.ac.jp/toui-ken/index.html

※本研究はあくまで薬理試験のデータであり、ヒトでの感染予防データを示すものではありません。

以上