小林製薬は、社会貢献活動の一環として、2010年より「小学校に洋式トイレプレゼント！」(旧「トイレぴかぴか計画」)を実施しています。また、2022年からは、キャラクターとともにトイレ掃除を学習体験できるコンテンツ「トイレモンスターズ」を取り入れたトイレ出張授業も開始。洋式便器というハードとともに、お掃除教育というソフトの両面から、小学校のトイレ環境の改善に向けて活動しています。​

2023年10月に、今年度の「小学校に洋式トイレプレゼント！」に参加いただいた佐賀県・北鹿島小学校の先生方、小学校のトイレ環境改善をサポートするNPO法人日本トイレ研究所の代表、小林製薬担当者の3者で、「トイレ座談会」を開催。

田角：
本日は、2023年度の「小学校に洋式トイレプレゼント！」に参加いただいた、佐賀県・北鹿島小学校に、小林製薬と日本トイレ研究所のチームがお邪魔して、校長先生と久島先生にお話を伺います。

洋式トイレが設置されて、子どもたちの反応はいかがでしたか？

池田校長：
みんな、ぴかぴかになったトイレを喜んでいます。特に感想を聞いてはいないのですが、子どもたちの姿からそれはわかります。また、PTAの会合などのときに、保護者の方にも、「きれいですね」とおっしゃってもらっています。

田角：
それはよかったです。今回、「小学校に洋式トイレプレゼント！」に応募されたきっかけ、経緯はどのようなものだったのでしょうか？

池田校長：
私が2022年4月に本校へ赴任して、洋式トイレが少ない事実を目の当たりにしました。これはいけないと、インターネットで検索して「小学校に洋式トイレプレゼント！」の企画をみつけました。ただ、そのときは4月上旬で、応募期間が3月31日までだったので、翌年の募集を待ってから、応募したのです。

田角：
「洋式トイレが少ないこと」による、子どもたちへの影響はどのようなものでしょうか。

池田校長：
今は便秘気味の子どもが多い。その中に、保健室のトイレを借りに来る子がいました。３年生の児童ですが、「おなかが痛い」という。どうやら便秘による腹痛ということがわかりました。どうして児童トイレでしないのかな？と思いましたが、久島さんに、「この学校は洋式トイレの方が少ないからではないか」と聞きました。

久島さん：
「洋式トイレじゃないと、できない」という子どもがいて、それが一因ではないかと思うのです。

田角：
便秘の子どもは、昔から一定数いるのでしょうか？

池田校長：
一定数いると思います。学校で大便をしたくなることがあるじゃないですか。そのときに、洋式トイレがないと、「あるところで借りたい」となるようです。毎朝、自宅で大便をする、というのが理想なのでしょうが、生活様式の変化もあるのか、なかなかそういうわけにはいかないようです。

加藤代表理事：
佐賀県の小中学校ですが、洋便器の割合でいうと、全国ワースト３位です。行政には頑張ってもらわないといけないですね。幼稚園や保育園は洋式トイレで小学校に入学して和式トイレを知ることになるので、驚くと思います。

久島さん：
家のトイレはすべて洋式ですしね。

池田校長：
保育園では全部のトイレが洋式で、子どもに合わせた最適なサイズなのです。そこから小学校に来ると、ずいぶん様子が違うということもありますしね。

田角：
戸惑う新1年生に、和式トイレの使い方を教えたりはするのでしょうか？

池田校長：
1年生には最初に必ず教えます。入学式が終わって、初日に教えます。
学校には遊具があり、その使い方ももちろん教えますが、遊具についてはまずは使用を禁止としています。それより先にトイレの指導ですね。

加藤代表理事：
さすがにトイレを禁止にはできないですからね（笑）

田角：
初めて和式トイレを見る子もいたりするのでしょうか？

池田校長：
ほとんどの子どもがそうじゃないでしょうか。

田角：
今回、洋式トイレが設営され、乾式床（シート貼りの床で、水を流して洗わないタイプ）になりました。また、トイレモンスターズのお掃除授業は、低学年、中学年、高学年のそれぞれで分けて行いました。みんなしっかりと理解してくれたでしょうか？
トイレ掃除の方法自体も変わりましたか？

久島さん：
床掃除に関しては変わっていますね。これまでは水で流してデッキブラシでこすって、という感じでしたが、今の乾式床は雑巾で拭いています。もともと、水を流すのは週に1回だったのですが、乾式になってからはほぼ毎日拭き掃除をしています。

お掃除授業のせいか、以前に比べるとトイレの「臭い」が全く違います。
トイレの臭いが改善されたことについて、私個人の意見としては、「トイレの使い方」が一番大きいと思います。次に、お掃除がきちんとできていることだと思います。以前は足の置き場が少しまずかったり、座る位置がまずかったりして、どうしてもはみ出ることがあって。

臭いが改善されたのは、湿式床（タイル貼りの床で、水を流して洗うタイプ）も同じです。床が変わっていないのに臭いが減ったということは、小林製薬さんに足を置くポイントにマークを付けていただいたことで、意識して正しい使い方ができているのかな、という気がします。

田角：
マークは効果があるのですね。

久島さん：
ありますね。職員トイレにもつけていただきましたが、すごく意識しますね（笑）

田角：
シールは、湿式床でもはがれてきたりしていませんか？

久島さん：
今のところ大丈夫です。

田角：
シールが強力なことと、貼り付ける前にきれいにしていること、それらが奏功しているようでよかったです。洋式トイレの寄贈からまだ1か月ですが、臭いに改善がみられたということで、これを維持できれば……

久島さん：
そうですね。維持したいですね。お掃除もポイントだと思うのですが、児童だけでなく職員も掃除の指導を受けられたことで、「同じ指導ができるようなった」ことも大きいと思います。これまでのように、それぞれが別々の指導をすることがなくなるので、1年後、2年後には、「この学校ではこういう掃除のやり方をする」という方針がしっかりと浸透して定着していけば、トイレもきれいに維持できるのかなと思います。

田角：
トイレ掃除のマニュアルはないのでしょうか？

池田校長：
トイレ掃除方法を決めている学校は多いと思います。ただ、どうしても工程が長くなるでしょう？子どもたちは、工程を省きたくなるのです。そこを丁寧にやっていく上で、トイレモンスターズというのはなかなかいいものですよ。

池田校長：
本校には「外トイレ」と呼ばれる屋外で使うトイレがあるのですが、その外トイレで虫を発見すると、子どもたちはキャーキャー騒いでいます。蜂でも出たのかと思い「どうしたの？」ときくと、「虫がいるので退治してください」と。

虫を追い払った後も子どもたちは心配しているのですが、「虫が来るということは臭いがあるんじゃないの？この虫は退治するけれど、これからは虫が来ないように“アンモニー”をやっつけようよ」というような会話が自然と出ます。トイレ掃除方法だけだと、こういう会話にはなりませんよね。こういう風にちゃんとやってね、というだけになってしまう。

アンモニア除去、換気、乾燥という3つの要素をセットでしっかり退治しないとモンスターが育っていってしまう、というところに、子どもたちも納得感を持てています。

田角：
それは素晴らしいですね。私たちもお掃除授業をしましたが、授業をして終わりだと、なかなか定着しません。そこに先生方のフォローというか、うまく継続して子どもたちに伝えていくという、そこがすごくうまくいっているのがすごくいいなと思いました。

加藤代表理事：
今回、小林製薬さんといっしょに「学校トイレに関するアンケート調査」を実施したのですが、「トイレの掃除方法について、参考にしている資料やホームページなどはありますか？」と尋ねたところ、「ない」と答えた学校が全体の81.0％でした。「わからない」が12.9％なので、全体の9割以上の学校が、頼るものがない中、頭を悩ましながらトイレ掃除に取り組んでいる可能性があります。

トイレモンスターズは、小林製薬さんと日本トイレ研究所で作成した「学校トイレ快適掃除ガイド」がベースになっています。先生方が「トイレ掃除方法は、これで間違いないよね」という共通の指導ができるようになったのは、とても大きなことです。

トイレ掃除方法の根拠がしっかりしていることで、校長先生がおっしゃったように、モンスターと虫をリンクさせて考えることにつながったのだと思います。「虫をやっつけたって、また来るよね」「原因はこっち（臭い）だよね」という会話は、共通理解があるからこその応用です。学校ならではの展開の仕方があることに気づかされました。

久島さん：
モンスターのようなキャラだと、子どもたちの反応は全然、違いますね。1年生の中にはモンスターを怖がる子もいるのですが、中学年くらいになると、反応がいいですね。トイレ授業でも一番反応が良かったです。

加藤代表理事：
科学的な根拠があるというのは大事です。裏付けがあるから、大人もただのゲームじゃないと感じる。アンモニアから名付けられた「アンモニー」というモンスターがいて、この汚れを放っておくと強いモンスター「メタルアンモニー」に進化してしまうところがいいですよね。こういったストーリーは大人も自然と受け入れられるのではないでしょうか。

田角：
さっき、トイレ掃除の様子を見学していたのですが、子どもがポスターを指さして、「このモンスターが危険なんだよ」と教えてくれました（笑）

田角：
コロナ禍を経て、小学校トイレの環境が何か変化していないか気になります。実際、学校のトイレに何か変化があったでしょうか？

池田校長：
トイレに関しては、あまり変わりはなかったですね。衛生面でも、通常の手洗いの指導のひとつですから。ただ、教職員についていえば、子どもたちが触れる部分を入念に拭いたり除菌したり、ということはありましたが、子どもには特に変化はありませんね。

田角：
加藤さん、調査結果からはどうでしょうか？

加藤代表理事：
調査結果によれば、「トイレ掃除を日常的に行っている人はどなたですか？」という質問に、「5、6年生の児童」と回答したのは9割でした。コロナ禍は子どもたちにトイレ掃除をさせなかった学校もあったので、「（トイレ掃除が）戻ってきた」ということだと思います。

それを踏まえてだと思いますが、衛生用品の必要性を尋ねたところ、必要性が高いものは「液体せっけん」「サニタリーボックス」「便座クリーナー」でした。なかでも、必要性は高いのに学校トイレで不足しているものは「便座クリーナー」でした。これは、もともとそういうニーズはあったけれど、学校でここまで意見が挙がってきたのは、コロナの影響かもしれません。

池田校長：
トイレ用品の話が出ましたが、職員の過ごしやすい職場づくりという調査で、時々挙がってくるのが「温水洗浄便座」です。それがついている学校は、職員の満足度が高いようです。

田角：
小学校トイレに長年にわたって存在する問題は何でしょうか？

加藤代表理事：
やはり「臭い」ですね。北鹿島小学校の先生たちもそれがきっかけで応募してくれたのだと思います。「臭い」というのが一番わかりやすくて、困ることですね。
次に、臭いの原因の一つでもある「便器の汚れ」です。これは、見た目と衛生面の問題でもあります。
そして、「洋便器の不足」。これらがワースト3です。今回の調査結果でもそれがわかりました。

田角：
洋式便器の割合は年々高まっていますよね？

加藤代表理事：
日本中の小中学校に133万個の便器があります。文部科学省の調査では、その洋便器の割合が68.3％になったことが報告されています。洋便器率は年々高くなっています。ただし、学校トイレに関するアンケート調査結果をみると、洋便器化が進んでいない学校は改修予定もない、ということがわかります。この結果は、深刻だと感じています。

具体的には「和便器が多くて床が湿式」という学校の約8割が、「改修予定なし」なのです。全国の約7割が洋便器になりましたというと、トイレ環境改善が進んでいるように聞こえますが、実はトイレ格差が広がっているという実態があり、困っている学校は、とことん困っています。

田角：
北鹿島小学校では、洋便器率は2割程度で、学年によっては洋式トイレがないところもあるそうですね。今後、改修予定はありますか？

久島さん：
今年もう1か所、洋式トイレを計2つ改修することになりました。でも、まだまだですね。

田角：
やはり予算の問題が大きいのでしょうか？

久島さん：
鹿島市内に小中学校が合わせて9校あり、すべての学校にまんべんなく行き渡るよう、年次計画がされているでしょうから、毎年少しずつ改修してもらっているので、少しずつ増えていますね。

田角：
ハード面は予算の問題があり、すぐには解決しない。けれど、御校のように「臭い」の問題についてはソフトパワーで改善できるでしょうか？

久島さん：
「古いから汚い」というイメージがされやすいですよね。けれど、掃除の仕方をきちんとすれば改善すると思っていたのです。でも、これまでは臭いがどうしても取れず、「どうしてだろう？」という思いがありました。

けれど、今回感じたのは、一番は「使い方」なんだなと。本当に実感しました。いくら掃除をしても、使い方がまずいと掃除も大変になるでしょうし、効果も一時的なものでしょうから。全児童が意識をもちながらやってくれていることで、結果が出たのではないかと思います。

田角：
使い方や掃除のやり方という比較的、費用がかからないソフト面でのケアで、臭いの問題が解決できるというお話は、全国どんな学校でも取り組めそうだという期待を感じますね。

私たちがトイレモンスターズをつくるときにも、「学校によって使い勝手良く、変えてもらえるようにしよう」という思いがあります。例えば、このポスターにはゴム手袋が描かれていますが、ゴム手袋を使っていない学校もあります。洗剤は流すのに時間がかかるからということで、あえて使わない学校もあります。

そこで、将来的には、これらのアイテムを、学校でアレンジできるよう、たくさんのパターンを作ることができればいいなと思います。

田角：
今回、校長先生が「小学校に洋式トイレプレゼント！」に応募していただいたという話がありました。このプレゼント企画を見つけてくれる先生が一人でも多く増えてほしいと願っているのですが、どうすれば全国の小学校の先生たちに、このプロジェクトの存在を知ってもらえるでしょうか？何か妙案あれば、ぜひ、教えていただきたいです。

池田校長：
広め方ということにはならないと思うのですが、私の場合、「洋式化されれば100点だ、それで満足だ」と思っていたのですが、仮に行政がトイレを洋式化してくれたとしても、今日みたいな子どもたちの姿にはなっていなかったと思います。やっぱりあのトイレ授業のおかげですね。

田角：
ハードはもちろんだけれど、ソフトにも魅力を感じていただいたということですね。

久島さん：
私なんかは断然、ソフト面ですね。校長に「小学校に洋式トイレプレゼント！」を教えてもらって、トイレ授業がついてくるのを知りましたが、「この授業こそ絶対にやってほしい！」と思いました。校長と同じタイミングで赴任したときに、校長は洋式トイレが少ないことを、私は児童のトイレ掃除が下手だということを気にかけていました。やはり、職員が同じトイレ掃除のやり方を指導していないのが問題だと感じていたのです。このトイレ授業を受けられたら、教師も児童も同じやり方で掃除ができるんじゃないかと期待していました。

田角：
私たちもソフト面のケアは本当に大事だと思っています。今回の調査でも、便器の洋式化は進んでいるけれど、床は湿式のままの学校がすごくたくさんあります。便器が洋式だけれど床が湿式の学校で一番困っていることは、「トイレが臭いこと」でした。こういう学校は、洋式トイレ寄贈のプログラムにはマッチしませんが、ソフト面のニーズはすごく高いと思います。

久島さんのように、ソフト面である「掃除のやり方」を教えてほしいという学校は全国にたくさんあると思います。そういうところに、今後ももっともっと伝えていきたいな、と思いを強く感じました。

本日は、貴重な時間をいただき、ありがとうございました。

小林製薬は、小学校トイレの「快」の実現を目指して様々な活動を行っています。2023年度は、全国の小学校に洋式トイレを寄贈する「小学校に洋式トイレプレゼント！」を実施し、日本トイレ研究所と合同で「学校トイレに関するアンケート調査」も実施しております。

（活動報告）
『小学校に洋式トイレプレゼント！』2023年度活動報告
https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2023/20231117_01/

（アンケート）
学校トイレに関するアンケート調査結果発表
https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2023/20231117_03/