
発売して終わり、ではない。
お客さまの声を常に聞き、
製品・ブランドを育てていく。
多くの部署や関係者の熟考と挑戦を経て、アイデアがカタチになった、小林製薬の製品の数々。苦労の末にようやく発売に至ったブランドも世に出て終わりではない。お客さまに長く使い続けていただくためには、トレンドや時代のニーズに合わせてブラッシュアップし続ける必要がある。1995年に発売された消臭・芳香剤「消臭元」もそんなブランドのひとつだ。
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多くの部署や関係者の熟考と挑戦を経て、アイデアがカタチになった、小林製薬の製品の数々。苦労の末にようやく発売に至ったブランドも世に出て終わりではない。お客さまに長く使い続けていただくためには、トレンドや時代のニーズに合わせてブラッシュアップし続ける必要がある。1995年に発売された消臭・芳香剤「消臭元」もそんなブランドのひとつだ。
大容量、香りの強さ調節、シャバシャバと振って香りを復活させる仕様などで、長年にわたり多くのお客さまに愛されてきた「消臭元」ブランド。「家庭用洗剤やスティックタイプの芳香剤のように、詰め替えに対応できないか」。2011年頃から社内でそんな声が上がり始めていた。世界中でエコへの意識が高まっていることを受けて、この先、詰め替え対応は避けては通れない。お客さまにとっての“あったらいいな”と、環境配慮の両方をカタチにしたエコな製品をもっと増やしていきたい。この強い想いが、今回の「消臭元SAVON」開発に至った大きな動機になっている。しかし開発コスト、技術的なハードルの高さがネックとなり、詰め替え品の開発は難航していた。
「消臭元」の特徴である
「シャバシャバ」と「香り調節」
思うような成果が得られない中、迎えた2018年。他社からリリースされた、とあるエコ製品に「消臭元」詰め替え対応に関わるメンバーは大きな衝撃を受けた。「環境に良い設計に加えて、デザイン性も高い。なんてハイレベルな仕事なんだ」。開発メンバーの心に驚愕と賞賛、そして一片の悔しさが滲んだ。
2011年から検討が重ねられてきた詰め替え品への対応。改めて関係部門が一堂に会し、詰め替え対応を加速させることで認識を一致。詰め替え対応品「消臭元SAVON」の今後の開発の方向性について“6つの約束事”を定めた。
「デザイン性(使いやすさ)」「効果の持続性」「シャバシャバ(振ると香りが復活する仕様)」「香りの強さを調節可能」「ワイド消臭フィルター」「400mlの大容量」という6項目だ。
しかし、「消臭元」の大きな特徴である「シャバシャバ」を維持しながら詰め替えもできるようにするには、消臭フィルターの出し入れが難しくなるなど、いくつもの高いハードルが存在し、6つの約束事を満たした製品の開発は断念せざるを得なかった。
しかし、単にすべてを断念したのではない。現行品は再生プラスチックで環境対応しつつ、「シャバシャバ」といった仕様は変えずに引き続きお客様にご愛用いただく。一方、詰め替え対応品の開発はあきらめない。現行品とは別コンセプトで検討していくという、新たな方針を打ち立てたのだ。
2021年から発売されている「消臭元」は、エコに配慮して容器包装に再生プラスチックが約50%(重量比)用いられている。しかしSDGsが浸透して久しい現代だからこそ、さらなるエコを目指したい。「石油由来のプラスチックの使用量そのものを大幅に削減しないと」。技術開発部のメンバーをはじめ、開発担当の誰もがそう理解していた。
この課題解決のために、本体容器の材料として分別回収や再加工がしやすいといわれているポリプロピレンの採用を検討。技術開発担当は、実際にリサイクルセンターにも赴き、捨てられたゴミがリサイクルされるプロセスの見学やヒアリングも行った。
「ポリプロピレンは間違いなくリサイクルしやすい素材だ」。
自分たちの目と耳で見聞きしたことで、「消臭元SAVON」の本体容器の材料として申し分ないと確信。さらにポリプロピレンの採用と併せて、消臭フィルターと容器部分を分別しやすい仕様にした。これにより、本体容器と詰め替え品の併用でプラスチック使用量を約76%※減少する仕様を実現した。
※本体容器を買い替えて使った際のプラスチック使用量と比較
その後、技術開発担当は生活者モニターの調査と改良を繰り返した。モニターの行動の細かな部分にまで目を光らせ、開発者サイドからは気付きにくいユーザーの視点を洗い出していく。ある日、フィルターの遠い部分を持っているモニターの方にその理由を訊ねると「ろ紙やフィルターに触れて手を汚したくない」と話してくださった。こうした生の声や視点を大事にしながら検討を進めていき、結果的に消臭フィルターに従来品の1.3倍※となる幅広タイプのものを採用することとなり、悪臭をよりキャッチしやすい構造という消臭剤としての価値を高めることにもつながった。
※消臭フィルターを使用している「消臭元」シリーズ比
詰め替えている様子。検討と試作を重ね、
ようやく満足のいく仕様に至った
リビングやキッチン、玄関、トイレなど、家庭内で発生する悪臭は場所によってタイプが異なる。1995年の発売以来、ロングセラーとなっている「消臭元」ブランドは、場所ごとの悪臭に特化した消臭成分を採用しているのが特徴。
一方で近年ではLDKやアメリカンセパレートなどに代表されるように、家庭内の空間の区切りが曖昧になりつつある。つまり、家庭内のさまざまな悪臭が混在する状況がスタンダードであり、従来型の処方では対応しきれないケースが増えてきた。そこで「消臭元SAVON」では「マルチ消臭処方」を取り入れることに。体臭や料理臭、トイレ臭など、さまざまなタイプの悪臭にひとつの処方で対応できる点が強みだ。
この「マルチ消臭処方」の開発にあたって、最大の壁となったのが消臭剤と香料の相性だった。製品の処方を生み出す研究開発担当者は、まず10種類の消臭剤でそれぞれ配合量を検討し、品質に影響が出ないパターンを割り出した。さらにそこから消臭剤にさまざまな香料や成分を混ぜ、一つひとつ相性を確認。試したパターンの数は30以上にも及んだ。
根気強い取り組みの甲斐あって、洗いたての香りでさまざまな悪臭に対応できる「消臭元SAVON」の処方の開発に成功。一般的に製品化までの期間は約1年だが、「消臭元SAVON」は事前検討に約1年、さらに製品化までに約1年もの期間を要した。それだけに、開発に携わったメンバーの胸の奥には、言葉にできない充実感が込み上げてきたという。
「消臭元」ブランドの詰め替え対応の検討が始まってから12年。ようやく「消臭元SAVON」を、消臭・芳香剤市場では珍しい詰め替え対応品として上市することに成功した。詰め替え対応と「消臭元」の特徴であるシャバシャバの両立については最後まで検討が繰り返されたが、品質や安定性の面を考慮して両立を断念。再生プラスチックを使用した現行品の「消臭元」、および「消臭元SAVON」を併売することで、ロイヤルユーザーおよび新規ユーザーのニーズに対応することとなった。
こうして開発は一旦のゴールを迎えたものの、製品開発においてゴールはスタートと同義。1995年に発売された「消臭元」ブランドが、2023年に「消臭元SAVON」をラインナップに加えたように、ブランドや製品はスタートとゴールを繰り返し、育て続けていく必要がある。近い将来、今回の開発メンバー、あるいは新たな若い力によって「消臭元」ブランドはさらなる進化と飛躍を遂げるはずだ。